大泉博子の

徒然草

DAILY
日々雑感
  •  高市総理大臣が就任し、トランプ米大統領との初の首脳会談を行った。マスコミは一斉に「成功」を伝える。高市総理のはしゃぎぶりには少々辟易だが、国民の受け止めも概ね好感だ。米側は日本が今後アメリカに投資する約束の80兆円を最重要課題にして、今回は安保問題を先送りしたようである。2日後に控えた習近平との会談の前哨戦として日米会談を位置付け、中国への刺激を避けたと思われる。

     高市総理は何から何まで安倍カラーを打ち出した。トランプ大統領への土産ですら、安倍さんの使ったパターだった。安倍元総理が第二次安倍政権の発足にあたって、持論の戦後レジームの見直しを封じ、アベノミクスを前面に出したのと同様、先ずは国民が苦しむ物価高対策を含む経済政策にとりかかろうとしている。サナエノミクスならぬニューアベノミクスとさえ言いきって、ここでも安倍氏の継承を強調した。安部政治は閉塞感の強い若者に受け、そのあと三代続いた総理の不発弾の後、安倍の復活は一定の人々の待ち望んだことである。

     アベノミクスに始まってアベノミクスに終わり、結局8年を費やして最大の目標である憲法改正を果たせなかった安倍晋三に代わって、高市早苗は何を成し遂げようとしているのだろうか。高市の船出はどこに向かうのであろうか。プロレスラーのトランプの寵愛を受け、日本の若者の「強い日本」への憧れを背に、右旋回してどんな海原が見えてくるのか、今のところは未知だ。高市総理に祝意を示さなかった習近平との確執あるいは融和が船の方向に大いに関係してくるだろう。今のうちに、どこを目指して出発したのかを明らかにしておく必要がある。中国接近の高波に方向を奪われる可能性を考え、舵を握らねばならない。中国はトランプが想像した昔の中国ではない、外交素人の高市が描く昔の中国ではない。不況の最中にあるとはいえ、経済力も軍事力も十分にアメリカと戦える国なのだ。

     当面の物価高政策、大きな政府志向の財政政策に関しては、今回の閣僚人事で最も評価できる財務大臣の片山さつき(他に評価できるのは茂木俊允外務大臣と鈴木憲和農水大臣)が任を背負うであろう。しかし、自らもモンスターかもしれない片山さつき大臣だが、財務省組織全体のモンスターに単独でかなうとは思われない。付け睫毛を付けている暇があったら、鎧兜を身につけることだ。それは、右から左までのエコノミスト、社会科学者を徹底的に味方につけることだ。そして、野党の政策もどんどん取り入れることだ。まさに、全盛時代の自民党がやってきたのはそれではないか。福祉国家も農業政策も野党のお株を取ってきたではないか。

     どこへ向かう船出なのか、明確にしなければ、今の高揚感はいずれ冷めてしまうぞ。

    • 自民党総裁選が行われている。「それが何?」。マスコミの報道も候補者の集票状況や政策項目の整理をしているものの、高揚感は伝わってこない。昨年の総裁選と比較してもさらに低迷していると言わざるを得ない。なぜなら、解党的出直しの掛け声は昨年も同様だったはずが、1年経っても政治とカネの始末はつけられなかったし、物価高を原因とする生活苦は治められなかった。だから、意志ある有権者は、既に自民党を離れた。その結果が参政党と国民民主党の跳躍をもたらした。他の受け皿ができた以上、もう有権者は戻ってこない。2012年、もっぱら民主党の失政による自民党の返り咲きのようなことはない、と断言できる。棚からぼた餅は一度はあったが、今や、棚をいくら眺めても何も落ちてこないのである。

      にもかかわらず、候補者は概して「古き良き自民党を取り戻す」ことを掲げている。安部政権が返り咲くときの「日本を取り戻す」が忘れられないのだろう。しかし、それは、それ程差異のない政策論争をつぶやき、古い自民党の上着を着て、保守ならぬ懐古趣味の自民党の議員たち、党員に気を使い、斜陽の集団を慰めようとする自慰行為に過ぎない。

      この状況の中で、誰が横暴なトランプ政権に太刀打ちできるかという視点を設けたならば、総理総裁となるべき人物を決定する唯一かつ重要な選択基準となろう。ズバリ、茂木俊允がダントツである。コンサルタント会社マッキンゼーで身につけた国際性と英語力は、真の意味で国際社会での仕事に精通している。留学経験やチョイ仕事の経験者は候補者の中にも多いが、茂木は、まさにトランプをして「タフな交渉者」と言わしめた実力がある。野党の中にもこれほどの人材はいない。

      当のトランプ大統領は、次第に狂気の政策を打ち出すようになっている。ノーベル平和賞に値する「戦争を終わらす交渉」にも失敗し、大学から優秀な留学生を追い出し、極端な移民政策でイノベーションの担い手となる科学者やエンジニアの人材流入にも歯止めをかけようとしている。しかも、保守系活動家のホープであるチャーリー・カークの追悼式では、エリカ夫人がせっかく「夫の命を奪った若者を許します」とキリスト者の信条を語ったのに対し、「私は許さない。左派の暴力は厳罰だ」と応じた。トランプ大統領は背後の支援母体であるキリスト教原理主義者を裏切っているではないか。トランプ大統領はパラノイアを疑われる。

      自民党の出直しではなく、世界にほぼ相手にされなくなった日本の出直しができるのは、茂木以外にあるまい。残念ながら、彼は癇癪もちで人気がないと言われている。容貌も今一だが、格好いいのは、小泉新次郎と小林鷹之だけで、あとの3人は見てくれはよろしくない。それもそのはず、格好いいのは若い人だけなのだ。5人全員が自民党の古着を着ている中で、世界に踏み出せる唯一の人材を推すしかあるまい。

      • ついに石破首相が総理大臣を降りることになった。新総裁は、国民民主党等と組んで安定政権を目指さねばなるまい。その場合、総理の席は他党に譲るべきだ。コップの中の嵐と言われた石破降ろしの動きは、民意をますます自民党から遠ざけ、解散こそは致命傷に至るとの石破首相の判断だ。自民党が解党的出直しをするつもりなら、民主党の失政によって返り咲いた出来事は二度とないことを知り、政権のトップから退くことを考えねばならない。

        石破首相の「花道」となった日米関税交渉は、自動車関税を15%まで下げたとはいえ、結局は高関税にとどまり、米国主導の対米投資を強要される。米国債を売ることもできない日本は、戦後80年を経ても米国と対等ではない。せめてトランプ大統領が同盟国に冷淡である間に、いささかでも対等に近づける外交努力が必要だ。国民は、減税による富の分配、少子化政策につながる教育費の低減、半導体や自然エネルギーの技術を世界トップレベルに引き上げること、インドを見習って独自外交を少しでも拡大すること、女性天皇や選択的夫婦別姓など、これまでの自民党ではできなかったことを世論調査上では求めている。

        自民党、55年体制から70年、ご苦労様でした。高度経済成長やジャパンアズナンバーワン時代を築き、年金、医療保険、介護保険など野党以上に社会政策を充実させてきた時代もあった。しかし、21世紀の自民党は末期症状。今後は中堅保守党として、明確な政策を掲げる、より保守党らしい政党にバトンタッチすべきだ。

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