日々雑感

21世紀の資本

 トマ・ピケティの「21世紀の資本」が2013年の出版以来、世界的に売れている。統計を駆使して書いた本だが、内容は分かりやすい。ただし、分量が多いので、読みこなすのは難儀である。
 論旨は明快で、現代の資本主義は、土地や株などの資産を所有していれば豊かになるが、賃金だけの生活は豊かにならず、格差が構造的に存在する。この構造の解決には、政治が介入して資産課税により所得の再分配を図ることが提言されている。
 この構造は資本主義の根本だが、なぜ今更ピケティが証明したのか。二度の世界大戦後、資産家が資産を失い、他方、国の立て直しに労働者の賃金が上がった時期が続いたので、格差が小さい時代があった。およそ80年代くらいまでだ。その時代が終わって久しいのに、先進国でいまだ格差是正の構造に本格的に取り組む姿勢が見られないことをピケティは警告したのだと思う。
 このことは、日本への警告とも言えるだろう。成長を第一番目の目標として、トリクルダウン理論で上から下へ富をもたらそうとする自民党政権に対し、明確に格差是正を掲げて対決をしているのが日本共産党である。先の総選挙では「自共対決」と言い切り、他の野党を寄せ付けぬ対立軸をつくった。共産党が議席を増やした理由である。
 ほかの野党も、一強である自民党に対決するならば、共産党を真似なければならない。あるいは、共闘もあり得る。現実的には、他の野党は、まだ格差を構造的に捉えていないのかもしれない(格差という言及はあっても理論的に捉えていない)。共産党のようなドグマに囚われることを恐れているのかもしれない。
 世界で誰もが知っているが誰もが熟読したことがないと言われる本が3冊ある。聖書、資本論、種の起源だ。いずれも名著のわりには論理と実証に疑問がもたれているからだ。ピケティは、出身家庭も大学での勉学も「左派」で、資本論を熟読した少ない人の一人であろう。統計ではなく哲学に頼ったマルクスの「資本論」を数学を使って現代的に書き換えたのがピケティの「21世紀の資本」とも言える。
 保守派の経済学者からの批判も受けている。筆者はまだそれに目を通すに至っていないが、日本の現況を考えるとき、ピケティの指摘は全く正しいと言うほかはない。
 今のところ、政治的には、日本共産党が一歩先んじている。筆者は共産党員ではないが。

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