日々雑感

ホリエモン「我が闘争」

 ライブドア元社長堀江貴文氏の「我が闘争」は、あっという間に読んでしまった。幼い頃から2006年のライブドア事件に至るまでの「心の履歴」を綴ったものである。
 標題の「我が闘争」は言うまでもなく、ヒトラーの著書から借りたものだが、自己肯定で突き進む人生は共通点があると言えよう。
 この本はとことん正直である。いい子ぶらず、あまり落ち込まず、人生を面白くしようとの一心で、堀江少年(青年)は人生を作ってきた。その過程で、人と争い、古い価値観を蔑視したかもしれないが、彼の夢が日本の若者の夢である時代を作った。
 野球チームのオーナーとなることも、テレビ局の買収も、政治家になることも、結局は実現しなかったが、彼のぶち当たるエネルギーは、もう少しだけ追い風があれば、若者が支配する世界を作り上げたかもしれない。それこそ、日本のビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズになっていたかもしれない。
 それを許さなかったのは日本社会だ。彼の行く手を阻み、結局は証券取引法違反で、収監されることになった。刑を終えても、彼の復活は難しい。日本に二大政党制を実現させた小沢一郎も、90年代ナンバーワン・エコノミストだった植草一秀も、「見えざる権力」によって、社会から消されかけた。恐るべし、日本社会。
 堀江氏は政治的には小泉純一郎に近い。小さな政府を求める。小泉政治は一世を風靡したものの、今ではその後遺症に社会は悩まされている。特に、若者の非正規雇用化は、社会の安定と夢を失わせた。だが、言うに言われぬ「古い価値観」が、「日本独特」が、いつまでも支配する社会であっていいのか。
 堀江氏は言う。「42歳の自分は世間的にはまだ若いが、30歳代で世界を席巻しようとしたあの体力はもうない。人より早く始めた企業人生だから、随分長くやってきた」。彼は、この本で、過去の思いの丈を吐き出したので、もう「過去とは付き合わない」。今だけを見て生きるそうだ。
 筆者もその言葉に励まされた。2012年の総選挙敗北以来、民主党政治、高齢者対策、団塊世代と若い世代の対話、厚生労働省を舞台にした小説を次々と特別連載欄に書いてきた。今まだ書き終わらぬテーマが二つ残っているが、書いたものについては振り返らず、未来志向で生きたい。
 堀江氏は筆者にとっては、子供の世代だが、古い団塊世代の筆者には刺激的な存在である。「我が闘争」はむしろ我々世代が読み、次世代にどう貢献すべきか考える縁としたい。

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