革新政治家
保守と革新。この二つは、対立ばかりでなく程度の差ととらえられることもあるし、テーマによっては保守と革新が入れ替わることもある(よく例に出すのが環境主義)。
そもそも革新という言葉はあまり歓迎されない。「保守」は穏健な響きで大概の人は保守と言える。穏健な革新は、リベラルと表現したほうが良さそうだ。多くの知識人はここに入る。極端な保守が右翼で、極端な革新が左翼であるとしよう。
今般、中国への行き帰り、いつもとは傾向の違う本を読むことにした。ある有名な右翼学者の本だが、彼の思想は雑誌などでよく知っている。
「ようやく安倍総理が戦後の問題を解決する先頭に立った」と彼は褒めちぎる。戦後GHQはニューディーラーと呼ばれる左翼系米人スタッフに牛耳られ、必要以上に日本は左翼化させられたと彼は言う。その是正に果敢に乗り出したのが安倍総理であるとのこと。
安倍総理の祖父岸信介は、戦前、「革新官僚」の名をほしいままにした。国益のためにダイナミックに動き、後世は満州の妖怪とすら呼ばれた。だから、自らを祖父のDNAの継承者と言う安倍総理は革新政治家を目指しているのだ。
小泉政権の後で総理になった時には、経験不足のせいで、小泉人気に及ばず、財務省をはじめ組織に飲み込まれてしまい、果ては持病の悪化で退いた安倍総理だが、今回は革新政治家を徹底的に演じている。
確かに、集団的自衛権を解釈で認め、かつての総理大臣談話を換えるのは革新そのものだ。かつて一億総懺悔させられた誇り高き日本人に、GHQ左翼系米人、国連の敵国条項まで引き合いに出して日本の領土を脅かす中国人と対峙させようとしている。少なくとも、著者の右翼学者は、安倍総理の意図をそう書いている。
分からぬでもない。しかし、右翼の出発点は「日本は間違っていない。なぜなら、もとより美しい国だから」。論理ではない。左翼もまた同様におかしい。「日本は、国家主義的な、家父長的な右翼と官僚が黒幕になって国を動かし、人民をだまし続けている」。これも根拠があるかどうか。原発も、TPPもだます輩がいるからだ、というのは根拠不明だ。
さて。久しぶりに時間をかけて読んだ右翼学者の本。別の見方をすると、民主党の批判本だ。民主党は結局かつての社会党でしかない、と言い切る。とくに外交は音痴だ、と。その証拠が普天間移設と尖閣列島の漁船衝突事故だ。
右翼学者によれば、自民党も戦後右顧左眄してきたが、安倍総理になって、曖昧な連中を抑制し、革新政治家である安倍総理が国難を救う、としている。
珍しくもない内容だが、問題はリベラル側から「革新的な」道が示されず、結局安倍総理になぎ倒されているという事実だ。自民党政治は終わりそうもない。