ピケティ流行り
今や経済誌はこぞって「21世紀の資本」を書いたピケティの特集を組んでいる。中には、経済学者を集めて、ピケティ理論に点数をつける記事まで登場した。与党に近い経済学者は、おおむね「ピケティは日本に応用できない」と結論する。与党は格差を許す政策であるからだ。
ピケティに百点をつけたのは、水野和夫氏だ。水野氏は、ピケティが流行る前に、「資本主義の終焉と歴史の危機」という本を著している。これが実に面白く、ピケティと共有する認識が大きい。
この著作よると、資本主義は新たなフロンティアをなくすと消滅する。絶対君主の資本主義から国民主権の資本主義に移って発展してきたが、資本は常にフロンティアを必要としてきた。植民地、戦後復興する国、新興国、最後にはバーチャルリアリティのフロンティアである金融市場。先進国は、資本をフロンティアに投下して自国を利してきた。しかし、最早、新たなフロンティアは考えられない、と著者は言う。
ピケティは、格差の固定した資本主義の是正を訴え、資本主義の生き残りを提言している。しかし、今の資本主義が、国民主権や民主主義という観点から言うと、大きな劣化がみられることについては、水野氏と同じ土台に立って議論をしている。
ピケティの提案する資産課税の実行は、強者の既得権を奪うことになり、難しかろう。フロンティアを失った資本主義がどんな経済社会を出現させるのか世界は不安である。おりしも、キリスト教圏で発達した資本主義の真髄である市場原理やイノベーションを否定する「イスラム国」が世界を敵にしているではないか。
いくら難しくてもピケティの処方箋を実現するしかないのではないか。20余年前に、ソ連の崩壊とともに資本主義の勝利を豪語した欧米世界(日本を含む)が資産課税という社会主義化を許せるかどうかが、資本主義の生き残りを決めていくはずだ。
ピケティは膨大なデータ分析をした。それは、これまでの「評論的な」経済学への批判でもある。数学を使うことを覚えた経済学者の、データを背景にしない数式へのアンチテーゼである。データによって大局観を得る手法を教えたとも言える。
ピケティは、経済学者が長年怠ってきた科学手法を改めて提案した。水野氏の著作と合わせ読むと、まことに眼から鱗である。