日々雑感

ニューノーマル

 新進気鋭の学者中野剛志の近著「資本主義の預言者たち」は、筆者の欄で紹介した水野和夫氏の「資本主義の終焉」や世界に議論を巻き起こしたピケティの「21世紀の資本」と大いに共通点がある。
 早く言えば、リーマンショック後の資本主義は立ち直る見込みはない。世界的な低成長が当たり前になり、金融資本主義時代を最後として資本主義は低迷する。実は、ケインズもシュムペーターも読み直してみれば、今日のカオスを最初から織り込んで理論を作ったと中野氏は紹介する。そして、現在二進も三進もいかなくなった資本主義の状態をニューノーマルと呼ぶ。
 中野氏と言えば、自らを保守論客と呼ぶが、同書の中で、かなりマルクス主義に傾倒している部分もある。彼は強烈なTPP批判論者でもある。つまり、思想は保守でも、ニューノーマルを招いた市場原理主義には彼は与しない立場だ。
 水野和夫氏は「資本主義の終焉後どんな経済社会が来るのか予言はできない」と論じ、中野氏もまたシュムペーターを含む5人の学者の預言を紹介しながら、自ら次の経済社会を描くことはできず、唯一結論めいたものは、伝統的・情緒的な共同体の役割に対する期待感だけだ。中野氏にしては凡庸な結論だ。
 早く言えば、ニューノーマルは絶望の時代か。将来を描く天才はいまだ現れず、資本主義の終焉だけがやってくる。グローバル化が進んだため、必ずしも先進国だけではなく、今やどの国も一部の高額所得層と大部分の貧困層に分かれている。20年前に、ソ連の共産主義が敗れ、資本主義の勝利に酔いしれてきた世界の先進国は、二極化した経済社会層の「階級闘争」に見舞われるかもしれない。それは現実化している。

日々雑感一覧