日々雑感

王様は裸だ

 概ね順風満帆、多少の波風こそあれ、それを乗り越えてきた安倍政権が突然嵐に見舞われた。安保法制の審議が佳境に入ったとき、憲法審査会に呼ばれた参考人が3人とも「集団的自衛権の行使は憲法違反」と言い切ったのである。
 しかも、与党招致の参考人が違憲を明確にしたことは前代未聞だ。なぜなら、参考人は各党が自党の側につく参考人を呼ぶことになっているからだ。明らかに、与党の憲法審査会代表幹事の船田元氏の事務的ミスだ。
 野党が「敵失」に歓喜している間、与党は犯人探しに躍起となっているだろう。邪推すれば、内閣法制局のトップは安倍政権に賛同しても、法制局参事官の多くは、明らかな違憲性を心に抱いていたからではないか。いずれ人事更迭の沙汰があるかもしれない。
 与党参考人が言ったことは「王様は裸だ」である。いやしくも法律を学んだ者たちが集団的自衛権を合憲だとは言えない。職業的良心にかけても言えないのだ。しかし、内閣法制局も、外務省も、防衛省もみな役人だ。内閣総理大臣の部下が上司の解釈に反対するなら、首をかけねばならぬ。
 だから、「王様が裸に見える輩は、臆病者か馬鹿かどちらかであって、あの美しい衣装が見えないのだ」と自らを抑え込むしかない。
 百歩譲って、王様の衣装が美しいものだとしよう。では、一体何のための衣装なのだ。憲法学者が声をそろえて反対している「違憲の衣装」は何のために必要なのか。それこそが国民の最も知りたいところだ。
 アジア情勢の変化? 湾岸戦争のトラウマ? いいや、多くの国民はもう気づいている。80年代以降、日本の政府の方針はアメリカからの要望によるものだ。敗戦直後から7年間、アメリカは日本を統治した。歴史上日本を支配した国はアメリカだけだ。かつての「宗主国」から、「アメリカの軍事を肩代わりせよ」と言われているのではないか。
 あたかも全面講和条約派の石橋湛山から日米同盟強化の岸信介が政権を奪ったように、その孫は、外交方針の定まらぬ民主党政権から政権を奪い、日米同盟強化を推し進める。日本中を敵にしたおじいさんの手法を反省して、解釈を使い、平和を唄って粛々と始めた「祖父伝来の偉業」はここに来て、嵐に見舞われた。
 安倍さんの政治姿勢については、この欄でもその意欲を買ってきたが、しかし、日本が向かう道の「アメリカへの協力」については、戦後70年の財産「日本国憲法」を崩壊させてまでもやるべきことなのか。
 総理はともかく、弁護士である高村副総裁も常に説明に舌を噛み、同じ弁護士谷垣氏も多くを語らない。安保法制、やめた方がいいのではないか。同時に表に出た年金機構の125万人データの漏洩。第一次安倍政権は年金の記録紛失が明るみに出て、政権の崩壊につながった。これからは、もしかすると、抑え込んでいたマスコミからの攻撃が予想される。
 もし、それでも乗り切ったら、安倍政権はモンスターとなり、戦後の日本の本質を変えていくであろう。残念ながら、今の野党では、踏みつぶされるのがオチだ。新たな政治集団の契機を窺う。 

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