日々雑感
外交は右、法は左
安倍総理に最も近いと言われる外交評論家宮家邦彦氏のお話を聞く機会を得た。宮家氏はワインを片手に、卓越した話術で安保法制と地政学について語った。中東専門の外務省キャリアで、学者ではなく、戦闘地域にも足を踏み込んだ自負を持つ。
中東、ロシア、中国という日本人には甚だ分かりにくい外交理論を語りながら、安保法制の必要性を説いた。国際政治を理解するのは、歴史とパワーで読み取り、経済合理性で読み取るべきではないと言ったのは至言である。これらの三国は、特にパワー論を援用すべきとは、正しい。国際関係論の教科書にあるネオリアリズムを思い起こさせる。
その上で、脆弱なイスラム国を野放しにしているのはアメリカであり、拡張主義の中国を阻止できるのは日米安保であり、ロシアには今のところ期待できないなどの内容は納得のいくものであった。ただし、筆者は、安保法制から憲法九条改正へ向かう理論には賛成できない。
岸信介は、国民をすべて敵に回して安保改定をやったが、その後の日本は日米関係を概ね肯定的に捉え、池田首相の高度経済成長政策と相俟って平和で豊かな日本を築き上げた。しかし、今回は、「安保後」にそのような安定的な日米関係と経済社会が待っている保障はない。日米関係がより上下関係になり、軍事行動を共にする日が来ないとも限らない。
歴史的に見れば、どこの国も、外交は「右側」のほうが優越している。パワーが判断材料だからである。逆に、法の支配を強調する憲法学者を始め法律家は「左側」に付く。為政者のパワー、つまり権力を抑止するのが役割だからである。
右と左の鬩ぎ合いは、まさにこれからである。