過剰診療
団塊世代も、哀しいかな、集まると、食事の後に何やら薬を取り出して飲む連中が多くなった。高血圧、糖尿病、心室肥大、咳、腰痛など、一人が複数の薬を飲んでいる場合も多く、まるで薬がデザートのようだ。こんなに一杯デザートがあったら、飲み忘れも多いだろう。薬の飲み残しが年間数百億円になるとの試算があり、むべなるかなと感じる。
よく聞いてみると、みな深刻な病気ではない。血圧や血糖値などの数値が高く、厳密には「病気予備軍」である。放置しておけば、脳卒中や心臓病になる、目や足の機能が低下する、そう言われて薬漬けになった。待てよ、日本の健康保険は、疾病に対して保険が支払うのであって、予防給付は法律上できないはずだ。違法の「治療」ではないか。少なくも過剰診療だ。
薬をもらいながら、たびたび検査を受け、その結果に一喜一憂する。薬を飲み始めると、定期的に薬をもらいに病院に行かねばならず、しばしば検査も受けることになる。つまり、患者は病院に縛り付けられることになり、病院側から見れば、患者を抱き込むことによって経営は安定する。また、降圧剤が明らかなように、対症療法でしかなく、薬の効用そのものがほかの臓器を痛めていく可能性がある。医薬産業に大いに貢献する。
年寄りは、若者に比べ身体が衰えているのだから、一人あたりの医療費が上がるのは仕方ないにしても、病気予備軍の多さが余計に医療費を引き上げていることも明らかだ。「かかりつけの医者を持て」と厚労省は半世紀近くも言い続けてきたが、心配ご無用、途切れることなく、かかりっぱなしの高齢者は非常に多いのだ。
健康は生きるための資源だが、齢を取ると、健康だけが目的になる。青汁飲むのも、歩くのも、薬飲むのも、みな健康のため、その健康を使って「何をやる」ということはお構いなしだ。なぜなら、労働市場からは追い出され、にわか趣味は相当の金がかかるし、夫婦の会話は無し、孫相手は疲れる。それだったら、病院で友達に会い、病気の話で盛り上がって一日過ごすのがいい・・・
高齢者に身体に合った仕事やボランテァ活動を提供し、「健康」を使う政策を怠っているのは、やはり政府か。その政策の怠慢が過剰診療を増やし、医療費を押し上げ、医療だけが友達の人々をたくさん輩出している。健康意識の向上政策だけ一生懸命だが、これは裏目に出て、ますます薬漬け人間が増えていく。あわれ、日本の社会政策。利害関係者が多くて何も変えられない、一番不幸なのは、健康目的に生きる高齢者自身と、ツケを払わされる若者だ。