加齢のパラドックス
先日、三井住友海上福祉財団の今年度財団賞を受賞した松浦常夫実践女子大学教授の受賞記念講演を聴いた。先生は、交通心理学の専門であり、今回は「高齢ドライバーの安全心理学」の著作で受賞した。
我々の間でも、よく「運転すると人柄が変わる」ドライバーが結構存在するが、運転をするときには性格や属性による心理状態があるらしい。高齢者一般がどんな心理で運転しているかは考えたこともなかったが、かく言う私自身も、高齢化率というときの高齢者には入るわけだ。若いころに比べ、遠出や知らないところに行くことはなくなったが、運転そのものは慎重になったわけでもないし、何も変化を感じていない。
松浦先生のポイントは、高齢者は、決して高齢を理由に「安全・ゆとり運転(補償運転)」を心がけるわけではないことである。高齢者は、幸せパラドックスと加齢パラドックスを擁していて、「若い頃より幸せ感がある」「運転もベテランだし、老いても大丈夫」という心理にある。
この心理の壁が危険であると先生は指摘する。今、70歳以上のドライバーの免許更新に認知症テストが課されているが、高齢者のこの加齢パラドックスについて、どう教育していくかは今後の課題である。交通事故の加害者も被害者も高齢者が多いことは言うまでもなく、そうは言っても都内23区で暮らすならいざ知らず、筆者のように茨城県の田舎暮らしでは車なしには生活ができない。
AIによる自動運転が進み、一人乗りの超小型車が普及し、電気自動車・水素自動車の技術がますます向上する中で、自動車業界は10年も経たぬうちに一変すると言われている。欧州では、ドイツが2030年、イギリス・フランスが2040年までにガソリン車の販売を禁止する。スウェーデンのボルボは2019年ガソリン車の製造を中止する。さらに、中国は、ガソリン車販売禁止の検討を今年開始した。
いったい日本は何をやっているのだ。いつ「脱ガソリン宣言」をするのだろう。せめて、高齢であれ、どんな条件であれ、同じように運転できる自動運転技術で、他国に先駆け、交通事故ゼロ社会を一番に実現しよう。