日々雑感

地球の裏側から

 国連NGO団体の御厚誼で、ブラジル・サンパウロに行く機会を得た。サンパウロは2002年、サンパウロ大学のシンポジウムに招かれて以来、16年ぶりである。
 16年前、在日の日系ブラジル人の年金掛け捨て問題がテーマで、日系人に優先的労働ビザを発した日本政府が、日系ブラジル人の年金掛け捨てを看過しているのをブラジル政府は怒っていた。サンパウロ大学のシンポジウムは激論になった。幸い、日伯年金協定が成立し、筆者が衆議院外務委員会の委員だった2012年に批准された。筆者はこの問題に縁があったのである。
 今回の会合で、筆者はこの問題に触れ、また、第二次世界大戦中、両国は交戦国であり国交断絶もしていたが、これらの過去のわだかまりは解決し、互いに友好関係にあることをスピーチした。もうひとつ、昨年の国連女性の地位委員会のモニタリングに参加し、日本もブラジルもGEM、即ち、女性の社会進出が遅れている事実を改めて認識したことも付け加えた。日本とブラジルの知られざる共通点である。
 今世紀初頭からBRICSと言われ、ブラジルは目覚ましく発展を続けてきたが、周知のとおり、前大統領の弾劾、経済の低迷で、現在は苦境にある。10月には大統領選挙を控えているが、予測を阻むほど混迷している。しかし、ブラジルはたくましい。同じ資源国オーストラリアなどと違って、航空機や自動車産業など工業国として発展している。自国生産のトウモロコシを使ったエタノール入りガソリンを使うなど、世界に先駆けた技術も持つ。
 ブラジルの発展に尽くしてきたのが1908年に始まる日系移民である。日系人はあらゆる分野で活躍し、敬意を持たれている。その日系人が造ったサンパウロ病院は日本製医療機器の導入を優先し、日本から学んだ衛生管理の行き届いた綺麗な病院である。社会保険制度は日本のように完備していないが、医療チームが常勤ではなく、ローテーションを組んでさまざまの病院を回ることにより、医師不足の解消に努めている。
 病院長に、「ブラジル人の死因は何ですか」と聞いたら、勿論、癌や心疾患や肺炎なのだが、病院長はおどけて、「殺人です」と答えた。麻薬組織の関連で殺人が増えているブラジルの実態である。
 BRICSの国々はそれぞれ問題を抱えているが、ブラジルは、ラテンアメリカ一の経済力と人口を持つ、ラテンアメリカの星である。世界をリードしていく可能性も秘めている。ロシアもインドも中国も日本に近いが、時差12時間、まさに夜昼逆の、地球の裏側にあるブラジルに親しみと期待を抱いた機会であった。

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