日々雑感

ケアマネジメント

 ケアマネジメント研究の第一人者白澤政和桜美林大学大学院教授のお話を伺う機会を得た。教授は、今年、「ケアマネジメントの本質」(中央法規)を出版し、三井住友海上福祉財団賞を授与された。その授賞式の席上のことである。
 言うまでもなく、ケアマネジメントは介護保険制度成立と共に導入された概念であり、利用者に合ったケアを計画し作成する方法のことである。アメリカでケースマネジメント、イギリスでケアマネジメントと呼んでいたが、日本はイギリス式の名前を採った。
 そもそもこの方法は、1970年代後半のアメリカで、福祉利用者が選んだ窓口によって受けられるサービスが異なるのは不合理と見て、福祉全体の横のつながりを大切にしながら、ベストのケアを選ぶ方法論として開発されたものである。精神病患者に施されたのが始まりである。
 白澤教授の論点を簡潔に言うと、日本は、ケアマネジメントを介護保険の利用者に付随した概念として捉えるあまり、老老介護にあたる家族介護者や、障害者、あらゆる年齢の福祉需要者に対する視点に欠けていると指摘する。
 高齢者の自立をケアの目的とするときに、子供時代から高齢に至る今日までの生活の連続性を保障する観点が必要である、と教授は言う。心身の自立を自己決定するのは高齢者自身であり、生活の連続性からくるその中身は人によってそれぞれ違っているはずである。
 教授によれば、実は、介護保険制度が始まってから、介護不安はより高まっている。これに対応して、ケアマネジメントは「丸ごと、我が事」相談ができなければならない。生活の連続性、家族介護者の視点は勿論含まれる。さらに地域支援も取り込まれねばならない。高齢者一人のためのケアマネジメントであってはならないのだ。教授がケアマネジメントの本質として主張するのはこういうことだと私は理解した。
 白澤教授は80年代、ミシガン大学の老年学研究所で学び、ケアマネジメントの研究を始めた。私は、その数年前、70年代、ミシガン大学で行政学修士を修めた。筆者が人事院留学生としてミシガン大学を選んだのは、留学の1年前の1974年、ミシガン大学に全米初の老年学研究所ができたからである。筆者は当時、厚生省の老人福祉課にいて、老年学研究所の単位もとりながら勉強しようと決めた。実際、修士論文は、アジア系移民の老年をテーマにした。
 今も、ミシガン大学老年学研究所出身の学者は日本でも多い。高齢社会への関心が今ほど高くない時代に、老年学のメッカであるミシガンで学んだ経験を共有したことにより、筆者は白澤教授の研究に興味を持ち、応援していきたいと思った次第である。

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