日々雑感
自由からの逃走
昨日、ある会合で、国際関係論の専門家が「現在は自由からの逃走の時代だ」と発言した。久しぶりに聞く「自由からの逃走」に心躍った。言うまでもなく、1941年、社会心理学者エーリッヒ・フロムが著した本のタイトルである。
フロムはユダヤ人で、ナチスドイツを逃れ、アメリカで活躍した人である。50年も前に読んだ本だから、詳細は覚えていないが、ナチスの研究から発し、人々は、与えられた自由を使いこなせず、むしろその自由から逃げて束縛の中に安定性を見つけるとの趣旨であった。当時は、この本に心酔し、私の青春期学問の一つの宝物にもなった。マルクスやフロイトをベースにしていることから、今は若者に読まれていないのではないかと思われる。
1648年ウェストファリア条約に始まった国民国家、主権国家の概念が崩壊しつつあることはよく知られる。グローバリゼーションが国境を越えて人、物、金の流れを作り、抗えぬ勢いの中にあるからである。西洋社会中心に続いてきた従来の価値観、資本主義や民主主義も崩壊しているとの考えが目立つ。「自由からの逃走」は、まさに行き先に迷う我々が選択しがちな方法である。
与党内の議論不足が明らかなのにリーダーの尻馬に乗る人々。野党は常に後手に回って有効な反論すらできない。こんな政治を垣間見ながら、社会のモラルが崩壊し、基盤を失った人々が趨勢に身を預けている状態だ。まさに「自由からの逃走」現象そのままだ。
50年ぶりに甦ったこの言葉を今年の銘としたい。自由に発想し、論理から逃げない。