持続可能な開発目標とは?
平成30年版科学技術白書を開くと、SDG、ソサイエティ5.0という言葉が先ず目に入って来る。日本の科学技術の方針にあたるものだからだ。
SDGは持続する開発目標の略であり、2001年、国連が開発途上国向けの2015年までの8つの目標(MDG)を策定したのに続き、2015年から30年までの、気候変動などを加えた新たな17目標のことである。
国連本部のロビーにはカラフルな17色の目標が掲げられ、国連に協調的な日本は早速これを政府の方針として採り入れた。国連では、SDGの達成にSTI(科学技術イノベーション)の方法を用いることにし、科学技術に強い日本の活躍は注目される。
政府が目指す日本は「ソサイエティ5.0」。この欄でも紹介したことがあるが、高度テクノロジーを使った超スマート社会のことで、社会的課題を解決していく。経団連では、SDGのためのソサイエティ5.0と名付けて、この二つを結び付け、健康、エネルギー、防災などの分野の活性化につなげようとしている。
いいことづくめのようであるが、果たして、日本人のどれだけの人がSDGやソサエティ5.0を知っているだろうか。政府のPRが足りないばかりではなく、説明も分かりにくく、具体的イメージが浮かばないのが欠点だ。また、国連や政府の目標がいいことづくめなのはいつもそうであって、どこまで達成したかはいつも不明なまま終わっている。
ドイツでは既に求心力を失ったメルケル首相だが、演説の度に「インダストリー4」を目指すと言ってきた。これは、産学官連携のものづくり高度化社会のことで、この方がずっと分かり易い。
しかも、SDGの17目標には、健康、食料、気候変動、エネルギー、防災、ジェンダー等世界共通の社会課題が取り上げられているものの、日本にとって最大の社会課題である少子高齢社会は入っていない。あらゆることの標準化が欧州で行われる如く、ここでも、欧州中心の課題選定が行われていることは明らかだ。一昨年、国連女性の地位委員会にNGOの立場で赴いたときに、「日本はSDGの中でもジェンダー問題は遅れていますね、欧州に比べると」と言われることになった。どうして日本は国連の優等生のはずなのに、こうも存在感が薄いのか。
SDGの一般化された目標よりも先に日本は少子高齢社会に取り組むことをを第一にしなければならない。また、イノベーションを使ってSDGに貢献する考えはいいが、イノベーションは各国競争の分野である。国連との連携以上に、新たな産業を興す日本のためにイノベーションを使っていくことの方が先決だ。
国連10人委員会のメンバーであり、JST(科学技術推進機構)元理事長の中村道治先生にそう申し上げたら、「国益とは、日本が国連の目標に向かって頑張っている姿を見せるのも一つの国益ではないか」と言われた。国際社会の現場で日本の国益が傷つけられているのを多く見た(最近の日韓関係もそうだ)筆者は、達観できない境地である。