深層海洋への誘い
過日の会議で、海洋物理学者の日比谷紀之東大大学院教授のレクを聴いた。それは息を飲み込むほどのファンタジーな内容であった。
我々が親しんでいる親潮・黒潮などの表層海流の下に、深海を循環する海流があり、月の潮汐によって引き起こされている。その深層海流は、北大西洋からアフリカの南、南極大陸の北を通り、太平洋に出て、回転し、ユーラシア大陸の南を通って、再びアフリカの脇を通って北大西洋に帰る。この行程は1500年かかる。現在太平洋に戻ってきた海流は、前回は日本に仏教が伝来した6世紀ころのものだと言える。
太平洋で回転するときに寒流から暖流に変わり、過去12万年の気温変化は深層海流の影響であるとの研究結果が出ている。現在気候変動は主に二酸化炭素による温暖ガスで説明されているが、実は長期的に考察すると、深層海流が原因ともなる。深層海流が停止したら、北大西洋の気温は5度以上低下する。つまり、現在の気候変動の科学は100年タームで議論され、1500年タームの話ではない。
地球物理学は46億年の科学であるのに比べれば、1500年は一瞬だが、自然科学の壮大さの前に、10年単位で経済社会を論じる社会科学の理論は、真理探究の学問とは言い難いではないか。
日比谷先生は、大気で起こる乱気流と同じ深海の乱流の観測を続けている。月の潮汐が駆動する深海の流れに改定の凸凹が乱流を起こす。乱流観測機は一基5千万円で日本では生産されていない。当然のことながら予算には苦労する。
はやぶさ2の活躍が目覚ましい現在、宇宙の解明や太陽系の成り立ちに日本が直接挑んでいるのは喜ばしい。ならば、深海の物理が地球の未来を示唆する存在であることにも同様に金をかける必要がある。超高齢社会で低速化している日本経済社会では、大きな夢を抱いてはいけないのか。否、学問、イノベーションこそがブレークスルーを見出すであろう。
月の潮汐と関係して、深層海流以外にも、ウナギの養殖への影響を指摘した研究がある。人間のお産も月の重力と関係していると言い伝えられてきたが、今のところ、有意味な研究成果は得られていない。月は太陽と違った形で生命や自然現象に影響していることを改めてファンタジーに感じた。