日々雑感

先進茨城県はあるのか

 茨城県人の自虐ネタは「相も変わらず全国魅力ある県47位、つまりビリ」であることだ。茨城県人の自慢は「農作物の北限南限のすべてが穫れる全国2位(時に3位)の農業県」であることだ。これだけ見ても、茨城県は印象が薄く、全国に知られていない県と言ってよい。

 歴史をたどれば、尊王攘夷の源である水戸藩は、桜田門外の変で失敗し、後進藩であるはずの薩長に尊王攘夷の旗手を奪われ、明治の藩閥政府の下では冷や飯食いになった。水戸藩(茨城県)の得た公職はお巡りさんばかりだった。
 
 そのせいもあって、近代政治になっても大物政治家が登場せず、梶山静六が総裁選に出たのが頂点で、勿論、総理大臣の登場は誰も期待していない。安倍首相が山口県(長州藩)8人目の総理であるのとは対照的だ。

 しかし、尊王攘夷を掲げたこの2つの県はその保守性において相似する。ただ、同じ保守でも中身は違い、長州(山口県)が成り上がり者の策士と陰険さを持つのに対し、水戸(茨城県)はあっけらかんの風情で、他人に褌(ふんどし)を取られても気づかないような楽観主義だ。

 そんな風土だから、戦後公選知事になってから、初代の官選知事からの転換を除くと、60年近くもたった3人の知事がいずれも長く藩主のごとく「君臨」してきた。変化を拒む保守性の土壌は、茨城県を知名度の低い特徴のない県にしてきた。2017年、通産省出身、トップビジネスマン、海外にも通用する大井川現知事が現職を破って当選したときは、何かが変わるという期待感が久しぶりに漂った。
 
 しかし、優秀であるはずの現知事もかなわぬ保守性の壁に突き当たったのかもしれない、やはり茨城は茨城のままだ。県庁の組織改正も驚くほどのものではない。

 ところが、ここに来て、現知事がLGBTのために差別禁止の条例を制定したいと意思表明したのである。知事の国際社会での活躍歴や夫人がリベラル弁護士であるという観点から見れば、決して驚くべきことではないのだが、保守土壌は今、騒然としている。LGBTのパートナーシップを積極的に認めるのは、渋谷区、世田谷区、杉並区などいずれも都内であり、しかも、首長はリベラル系だ。大井川知事は自民が推す保守系なのである。

 どうやら自民党の反対で、条例まではいきそうにはないが、知事は何らかの形でLGBTの権利確保を約している。このことは筆者が2000年、山口県副知事の時に全国3番目に男女共同参画条例を制定する過程で激しい反対運動に遭ったのを思い出させる。国からの出向だから、筆者は全国に先駆けたかったのだが、保守土壌の下では、47番目になるまで待てばよかったと今では思っている。ちなみに山口県庁が県庁ランシステムを取り入れたのも全国47位だった。
 
 大井川知事さん、LGBT容認を全国に先駆けるのは、茨城県では難しい。魅力ある県47位なのだから、47番目まで待つしかない。それよりも、知事の得意なビジネスの世界で、イノベーションの世界で、先進県を目指してほしい。筆者も老婆となってやっと、土壌が整わなければ種をまいても仕方ないとの思いが先んじるようになった。老婆心からのお願いだ。

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