宇宙に夢を託せるか
世俗を騒がせているのは、金融庁の報告書「老後には、年金以外に2千万円の蓄えが必要」である。多くの年金生活者は、年金だけで食べていくのは難しいことを知っている。さりとて、少子化で若い人に負担を強いるのも心苦しい。こんな時代に、宇宙に目を向け、宇宙科学とさらに宇宙ビジネスの発展に思いをはせる余裕はあるだろうか。
しかし、国はあらゆる分野でしのぎを削っていかねばならない。おりしも、はやぶさ2が小惑星リュウグウにタッチダウンし、いよいよ岩石の採取を始めるというニュースが飛び込んできた。はやぶさ初号に続く日本の宇宙科学における快挙だ。重力のほとんどない小惑星の岩石は、太陽系誕生のなぞに迫る材料を与えてくれるという。
同時に、この快挙は、日本のイオンエンジンや宇宙太陽光パネルなど高い技術を世界に示す機会にもなる。この事業を担うのがJAXA(宇宙航空研究開発機構)である。2003年に3機関が統合して発足したJAXAは、現在、国立研究開発法人になって、職員1500余人、予算は1500余億円のいわば日本の国策を遂行する機関だ。
しかし、現在では、宇宙に関しては国策だけではなく、アストロスケール社など民間事業者が宇宙旅行ビジネスに参入し、民主導の宇宙ビジネスが有望になっている。JAXAは、ベンチャーとの連携や技術協力など新たな方向に踏み出している。まさにその話をJAXA新事業促進本部の杉田尚子課長にお聞きしたばかりだ。
世界の宇宙産業の規模は404億ドル。その内、半分はアメリカ、アメリカの10分の1が日本である。EU、仏、独など欧州を合わせると日本はその5分の1である。中国は日本より多く、ロシアは少ない。インドなどの新興国も宇宙産業に乗り出していることが知られている。つまり、宇宙産業は国力を競う舞台でもある。
JAXAはまさにナショナルフラッグを背負って、民間宇宙ビジネスに取り組んでいるが、アメリカに比べると2周遅れの感があると杉田課長は言う。それでも、昨年政府が公表した「宇宙産業ビジョン2030」は、安全保障確保、宇宙利用の拡大、宇宙科学の成果などがビジョンとして描かれ、日本の第4次産業革命に資するとしている。大いに期待したい。
世俗の安寧福祉と科学を駆使した新時代への夢、その二つは両立してほしい。