日々雑感

てなもんや三度笠

 1960年代のテレビ人気番組に、藤田まこと主演の「てなもんや三度笠」があった。江戸末期と思われる時代設定で、藤田まこと演じるあんかけの時次郎と旅の道連れチビの珍念が道中で巻き起こすドタバタ喜劇だ。 
 その珍念をニックネームに持つ山口敏夫元労働大臣のお話を聞く機会を得た。山口さんと言えば、新自由クラブを担いだり、渡辺美智雄を総理にしようと画策したり、果ては詐欺罪で収監されるなど「お騒がせ」な衆議院議員ではあったが、機をみて行動する筋金入りの政治家と言ってもよい。引退して久しいと思っていたところへ、2016年、都知事選に突如立候補したが、志叶わずだった。
 山口氏は、1985年男女雇用機会均等法を成立させたときの労働大臣である。80年に女子差別撤廃条約に署名したものの女性雇用の不平等を是正できないまま条約を批准していなかった日本だったが、山口大臣の下で成就させた。山口氏は、女性労働官僚に「なぜ日本は、女性の雇用についてここまで放置してきたんでしょう」と問われたときに「それはあなたたちの問題でしょ」と答えたそうだ。
 確かに条約の署名から5年、労働省の女性局長に赤松良子(故人)が就任するまで放置されたのは、日経連などとの激しい交渉を乗り切れるだけの能力に長けた赤松の登場を待っていた感がある。
 山口氏が言わんとしたのは「人のせいにするな、自分でやれ」ということだ。まさに、山口氏は、進んで火の中に飛び込む性分で、そのためにお騒がせ議員となったのである。今、これだけの信念と行動力のある政治家はいるだろうか。珍念の名のごとく、小柄だがあふれる政治パワーを持つお人である。
 政界ドタバタ劇に関与してこられた山口氏の今も変わらぬ政治の真理を語る姿に心惹かれない者はいない。山口氏いわく「自民は野球で例えれば、一軍のみならず代用の二軍まで揃えている。野党は一軍のメンバーすらも揃え切らない。そこが違いだ」。正しい。自民の一軍の資質も怪しいが、少数与党に追い込んでも連立政権を創れない野党は一軍の人数も足りないからだろう。長い間の職業意識の低迷がこの状態を招いている。
 五里霧中で行く道すら定まらぬ今のカオス政治に、政界の知恵袋を活用すべき時だ、てなもんや。

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