自民総裁選 なぜ歴史を繰り返す?
自民総裁選は「出来レース」になった。菅官房長官を推す派閥の単純合計で決まった。勝敗の分らぬレースなら、菅氏は出馬しなかったろう。それほどに慎重であり、身の程を知る男である。
菅総理誕生に貢献した派閥は、人事権を獲得する。菅氏の周りは「決められた」派閥人事で、彼自身は動きもすごきもできまい。それを知ってか、出馬の弁も、安倍政治の継承と自らの質素な出自を語るにとどまった。
国家観は語られず、外交も疫病対策も経済回復の道も国の借金も語られなかった。しかし、これはまずい。国民は誰しも安倍政治の継承を望んでいない。新たな出発のダイナミズムが求められているのだ。粛々と安倍政治の継承を、菅氏が自ら語った「質素で誠実な」性格で行えば、自民政治の下り坂は止まらない。
にもかかわらず大きな派閥がこぞって菅支持に回ったのは何故か。1年後に自分の派閥から本格総理を出すのが一つの狙いだ。
狙いはもう一つある。経済回復の道も借金返しの道も描くことはできないし、疫病をきっかけに、憲法25条が保障する「健康で文化的な生活」の設計図を描くこともできない。コロナで膨らんだ財政赤字の数字やマイナスのGDP以外にも国民に隠された「衝撃的な悪い数字」が山ほどある。隠しきれるのは菅氏しかいない。
しかも、忖度政治の続きで今切られては困る事業や人脈も継承してほしい。それができるのも菅氏だ。だから、派閥に泥が被らないようにするには、口の固い菅氏一人の責任にすることが望ましいのだ。これがもう一つの狙いだ。
外国の領袖と肩を並べて交渉するのは、菅氏の経歴からすると難しい。こうした事情を知りつつ総理を引き受けた菅氏は、周囲の政治屋によってボロボロにされていくだろう。政治屋なんかどうでもいいが、国民はどうなるのだ。
党大会を実施するよう主張して集まった自民党150人の議員たちは、これを機会に新たな政党を作るべきだ。安倍政治の継承は、2006年に小泉政治の継承が行われた歴史と同じ轍を踏む可能性が高い。自民党の良心が結集して新たな政治に進むべきだ。幸い、今の野党に何の力もない。今こそ、真摯な政治集団を作る役割を果たせ。