北極の夢
コロナで再び「鎖国」と「自粛」の体制に入る中、国内外の重要課題は置き去りにされた感がある。その一つが地球温暖化であろう。その温暖化の象徴が、いつも映像に現れる北極の氷の崩落だ。
此度、北極研究で知られる山口一東大大学院教授のお話を聴く機会を得た。山口教授は長年にわたって北極の海氷域面積の縮小を研究してこられた。北極は、温暖化の象徴以上に、科学の研究対象の宝庫であり、産業振興や災害政策にもつながる重要な課題を抱えることを知った。
温暖化による解氷は、ロシア側とカナダ側の北極海航路を開き、アジアと欧州間、アジアと北米東海岸の距離を3ー4割減することができた。輸送などの経済効果を生み、かつ資源開発の可能性も大にしたのである。北極海航路が政治的に安定しているならば、スエズ運河やパナマ運河を利用するよりもはるかに安価になる。
ただし、北極は南極とは異なり、大陸ではなく、海であるので南極条約のような平和利用のための国際条約がない。国連海洋法条約が適用されるが、課題はロシアやカナダの内水を通過するため、その利権が考慮されねばならない。運航や開発が自由にできるというものではない。
かつては、日本からの欧州便はソ連の上空を飛行できないため、アラスカ経由で北極の上を飛んだ記憶がある。現在は欧州はみなロシア上空を通って直行便で行けるようになり、時間が短縮した。北極海航路も自由主義議国にとってはカナダの方が使いやすいそうであるが、北方領土返還を含め、ロシアとの友好はここでも必要になってくる。
日本は、ノルウェー、ロシアと協力して北極海航路の研究を行ってきたが、近年では、北極の経済性を認識して、中国や韓国も日本を真似ようとしている。特に中国は、経済力と科学への投資に力を入れていることから、北極海航路を一帯一路に含め氷のシルクロードと呼んで積極的に開発参入を狙っている。
北極における日本の解氷予測はきわめて正確であり、日本が北極科学をリードする可能性は高いが、ここでもまた予算の制約がある。砕氷機能の付いた北極研究船がようやく予算化された。この船を持たないと船を持つ国と同等に研究ができないそうだ。
科学者は第一線に出たときに「先進国日本のはずなのに・・」と思わされる場面が多いであろう。必ずしも経済性だけを目指すのではなく、基礎研究にふんだんな予算を組める国になってほしい。カネで中国に負けるのは先達研究国として残念ではないか。コロナ対策も経済政策とのバランスで大きな投資をしなかったのが失策と言われる所以ではないか。