一億総「病名あり」の時代
2021年、世界で初めて、内閣府に孤独・孤立対策担当大臣が設けられた。「政府は孤独死など放っておきませんよ」とのメッセージを発したわけだが、「これって、結婚しろ、子供を産め、というメッセージと同じくらい私的領域に踏み込んでいないか」という見方もある。
バイデンが大統領選に使った「多様性」のキーワードは、同質社会の日本でも、従来、徐々に取り入れられてきた。教育現場で難しい子供に発達障害や学習障害の病名がつけられ、特殊学級など対策が講じられてきた。発達障害の一つアスペルガー症候群は、少なくとも団塊世代の筆者の世代には聞いたことのない病名だった。病名ができて対処ができて、病名付きの子供が増えた。
大人の世界でも、かつては、モラトリアム人間、アダルトチルドレンなどと著作が時流に乗っただけだったが、今では、たくさんの精神疾患の名称ができて、「誰もが精神病」になって、スティグマ(汚名)が解消されている。
LGBTQについては言うに及ばず、原因を研究するよりも、そうなのだから仕方がない、それを社会が受け入れないのが間違っているとして対策が先行している。
以上は、生物的要因による「障害」なのだから、抵抗できないし、対策を練るのは是とすべきであろう。しかし、孤立・孤独や、未婚率の上昇、子供を産んで後悔(博報堂調査で女性の4割)などは、社会が原因をつくっているので、その現象だけをとらえて減らそうとする対処方法は間違っている。生物的要因と違って、原因をなくすことが真の対策であろう。
石田光規早大教授によれば、70年代は老人の孤独、90年代は被災者の孤独が社会問題になったが、2000年以降は全ての人の孤独に敷衍した。特にコロナで外出が制限され自宅に逼塞していれば孤独者が増加したことは言を俟たない。
政府は、外出自粛や飲食店閉鎖が大量の孤独群を作り出してきたことを反省すべきであり、子育て支援を保育所増設だけで切り抜けようとする対策も反省すべきである。非正規雇用の社会が後戻りできないのであれば、結婚適齢期の若者に住宅や結婚費用の援助をすべきである。原因を潰さなければ現象は治まらない。
老人の孤独にはタダで行ける公共施設をつくること、育児不安にはシルバー人材の女性を活用すること、病名のつく新時代の疾患には対応する窓口を置くこと、国や自治体ができるのは問題の原因を取り除く努力、そこまでだ。それでも、孤立し、社会に適用できない場合があったとしても、人の心にまで入る対策はあり得ないだろう。