中学生が危ない!
伊藤美奈子奈良女子大教授のお話を聴く機会を得た。先生は臨床心理学の専門で、スクールカウンセラーとして現場も擁している。子供の自殺予防について熱っぽく語った。
キーワードは、中学生が危ない時期であると筆者は捉えた。いわゆる思春期であり、第二次性徴の訪れにより身体の変化が現れるとともに、自己意識が高まりアイデンティティを模索する時期である。中学生は、調査の数値上、小学生と比較して自己肯定感が低下し、小学生・高校生に比べ、最も「死を恐れぬ」感覚を持つ。
性衝動を含むとんでもない行動に走る可能性があり、親や大人の上からの小言・助言を拒否する傾向にあり、その不安定状態が心身ともに大人になるまで続く。中学生がその出発点であり、かつ最も不安定であるから、衝動的な死の選択を抑止するカウンセリング、また制度的な支えが必要である。
子供たちは、デジタルネイティブであるが、相談相手としては、ネットでの相談窓口よりも友達を筆頭に「生身の人間」を選ぶ。そもそも相談しないとの選択も多い。死の選択や自傷行為を抑制するには、周囲の人間が子供たちの心を察し、対処してやらねばならないのである。
大人はそれぞれが中学時代を思い出し、「何であんなことをやったのだろう。何で親に反抗したのだろう」と振り返るにも拘わらず、いつまでも子供を上からの立場で観て、抑圧者になってしまうことが多い。先ずはそれを反省すべきだ。
子供の自殺は増えているが、そこまで極端な選択をしないまでも、将来、折角の就活で得た職業も長続きせず、引きこもりが長引く、結婚願望がない等現代の若者が抱える問題の「芽」が中学生の時期に発生するのである。大人は真剣に中学生に向き合わねばならないはずだ。
伊藤先生は子供の自殺予防の立場から「死を正しく畏れる」ことを教えなければならないと主張する。かつてに比べ身近に死を体験する子供が減ったことも要因であるが、死を安易に美化することを戒めねばならない。
筆者は、子供の発達全般に関しては、「生は、未来は、正しく楽しむ」ことを教えねばならないと考える。経済成長しない日本、格差広がる社会で閉塞感に捕らわれている中学生を始め子供たちに「生を正しく楽しむ」ことを教えられるか。
それは、社会の責任であり、政治の中心の課題だろう。