日々雑感

ノーベル賞受賞者の指摘

 快挙である。日本人科学者三人が青色LEDの研究でノーベル物理学賞を受賞する。再びデフレに逆戻りするかもしれない日本列島に、まさにLEDの光が輝いたようなニュースだ。
 三人三様の発言が面白い。天野浩名古屋大大学院教授は「高校、大学でしっかり勉強したことが役に立った」と控えめなコメント。2002年に受賞した田中耕一先生と同じく、「私がノーベル賞なんて」と言う姿が、日本人の感性には称讃してやまないものとして映る。
 赤崎勇名城大教授は、終始謙虚の中でずばり「流行りの研究に飛びつくのではなく、好きなことを続けるべき」と研究者にメッセージを伝えた。これは、実は鋭い指摘である。言い換えれば、再生医療など政府の成長戦略に掲げられているテーマには大きな科研費がつき、研究者が殺到する事実を憂慮しているともとれる。研究者は良心に従った選択をせよということだろう。
 中村修二カリフォルニア大教授については、長年注目していた。徳島県の鄙びたところで、天分を発揮し、青色ダイオードと青色半導体レーザーの開発という偉業を成し遂げた。2001年、成功報酬を巡って会社を相手に訴訟を起こしたことはよく知られている。
 今回の受賞の言葉の中でも、中村教授は「日本には研究の自由がない」と断言した。アメリカに移住したのは、アメリカンドリームはあってもジャパニーズドリームはないからだと言う。このことは、1987年のノーベル医学生理学賞をとった利根川進博士も言及したし、1973年にノーベル物理学賞を受賞し、後に筑波大学学長になった江崎玲於奈先生も、事あるたびに日本の教育制度は天才を生まないと指摘してきた。
 日本が物理を始めとする科学・技術分野にいかに強いかが世界に発信されたが、同時に、もうすでに、将来にわたって日本の強みが維持されることは危ぶまれている。科研費の競争を巡って、早く成果を出そうとすること、流行りの研究にばかり人とカネが集中すること、研究者個人の成功の報酬が考慮されていないことが指摘されている。中村先生のような、耳が痛いご意見を日本が取り上げていけるかどうかで将来は決まってくる。
 この大きなニュースの陰で、小さく取り上げられたもう一つの科学ニュースは、小保方氏の早稲田大学博士号が取り消されたことである(厳密には再提出一年以内の猶予は与えられている)。小保方氏は、成果を急がされて研究不正に至ったに違いない。うら若い女性研究者は、流行りの研究志向、女性登用などの犠牲になったとも言える。
 研究も女性登用も、数値目標ではなく、足元を固めることが第一だ。

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