日々雑感

徹底的に社会派

 近日、宇都宮健児元日本弁護士会会長の講演を聞く機会を得た。宇都宮氏は、TPP反対の集会でお見かけしたり、都知事選に二回出馬したことで存じ上げている。2010年に日弁連の会長に当選したときには、マスコミが左派弁護士会長としてかなりセンセーショナルに取り上げたのを記憶している。
 感動的なお話であった。氏は1946年生まれ。父親は、愛媛県の半農半漁の村から大分県の開拓村に移り住み、過酷な労働に勤しむ姿を見て氏は育った。尊敬する人は躊躇なく「父親」であると答える。
 勉強とスポーツに秀でた宇都宮氏は、周囲は義務教育で留まるところ、東大法学部に進み、在学中に司法試験に合格する。貧乏学生の多い東大駒場寮で、被差別部落や炭鉱労働者の問題意識に目覚め、弁護士を志したと言う。
 その後の活躍は多くの人が知るところであるが、当時誰も手を染めようとしなかったサラ金問題に取り組み、立法運動を行って、サラ金問題を沈潜させた。貸金業者は、1986年に47000余あったのが2015年には2000余に激減しているのである。
 氏は、その後も貧困問題に取り組んできた。年越し派遣村でも活躍し、世に格差問題を訴えた。まさに社会派弁護士と命名するにふさわしい。
 氏は、周囲から要請されて日弁連会長に就任し、其の後、2012年と2014年の2回、都知事選に出馬したが、これは当選を果たせなかった。かつて美濃部革新都知事を輩出した東京都だが、現在では、あの頃全国に熱波を送った革新の力は失われている。
 氏は、弁護士の役割として、立法への関与と政治への関与を主張しているが、まさに自身の人生でもそれを成し遂げようとした。その凄さ、その賢さ、その一徹さに心をとらえられた。しかも、弁護士らしく、語り口は流暢でかつ優しい。
 筆者は、いわゆるサヨクには与しない。1968年の全共闘運動以来、サヨクには一線を画してきた。「革命」や「何でも反対」には賛成できない。しかし、宇都宮氏の論理的な手法と正義の実現には敬服する。そもそも弁護士という職業は、日本国憲法を前提に職業活動するならば、リベラルにならざるを得ないだろう。
 日本の国会には弁護士は少ない。アメリカでは、政治家と言えば弁護士だ。特に大統領は、ブッシュ・ジュニアなど何人かを除けば皆弁護士だ。日本は、ここ10年、司法試験を易しくして弁護士を増やすことに躍起となってきたが、これは今、就職できない弁護士が現れ、裏目に出ている。それよりも、立法府にもっと弁護士を送る必要があろう。折しも安保法制の議論が始まっている。議論を論理的に仕掛けられる経歴を持った議員が必要だ。

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