日中韓三国協力事務局
2011年、ソウルに設置された日中韓三国事務局の梅沢次長にお会いする機会を得た。次長は外務省からの出向である。
トランプ大統領がTPP離脱を決めてから、アジアの自由貿易の枠組みは振り出しに戻った。日本はアメリカとともにTPPにイニシアチブを取らせるつもりであったが、中国はRCEP(東アジア地域包括的連携経済組織)にイニシアチブをとらせようとしていた。RCEPはASEAN+日中韓+インド・オーストラリア・ニュージーランドの16か国の枠組みである。
日本でも、これまでTPPに反対していた論者はRCEPを主張する人が多かったが、その基本になる日中韓関係の調整をしているのが日中韓三国協力事務局である。三国の首脳会談や外相会談を実現させるのが任務である。現在は、トランプの出方や、日韓の少女像問題や、中韓のサード問題などが東アジア政治を難しくしている。
梅沢次長曰く、それでも、韓国の民間人の対日感情は悪くない。確かに、いつも私が韓国に行くときは日韓関係が良くないが、決して不快な目に遭ったことはない。中国でも同じ経験をしている。だから、日中韓三国協力事務局としては、政府間交渉ばかりでなく民間交流を量的に拡大したいであろう。
しかし、次長とともに会った韓国の大学で教える日本人学者によると、「朝鮮半島の研究者は日本でのポストが少なく、したがって、日本の学者はもっとポストの多い地域研究に回る」という現実問題を聞いた。このままだと隣国の研究が進まない。アメリカとメキシコの間に壁を作るようなロジックに至らぬよう、東アジアを知る日本人を大量に増やすべきだろう。
イギリスがEUを離脱し、アメリカがNAFTAの見直しを予告しているのとは反対に、アジアでは、RCEPが動き出し、ブロック経済化を目指すはずだ。また、日本の経済界では、AIIB(中国が中心のアジアインフラ投資銀行)に参加すべきという声も次第に多くなっている。
アメリカは従来、アジアの巨大な市場をリードしようと、TPPを主導し、AIIBに参加せず、アジア危機時代に日本が提唱したアジア版IMFも潰してきたが、果たして、モンロー主義のトランプはどう出てくるのか。本日、安倍首相は日米首脳会談に旅立つ。大変な岐路が待つ。