新たなフロンティアと国益
過日、白山義久京大名誉教授のお話を聞く機会を得た。題は「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全及び持続可能な利用に関する新協定」についてである。
耳慣れない題であるが、簡単に言うと、公海の資源保全の協定ということだろう。国連が音頭を取り、23年6月に正式に採択され、60か国が批准してから発効される。日本はまだ、署名も批准も検討中である。シンガポールや環境政策重視のドイツが先導役を務める。
これまで海洋法については、領土の沿岸に当たる領海や排他的経済水域が定められ、生物多様性条約において、沿岸国による管理が規定されている。しかし、公海については何も定めがなかった。
日本は、途上国が公海での生物多様性は人類共通の財産であると主張するのに対し、共通財産は海底鉱物資源に限るとしている。また、公海でのモニタリングには膨大な費用が掛かることを懸念する。しかし、海洋国家日本がいずれ署名・批准することは容易に予想される。海洋遺伝資源から医薬品の開発などの便益が得られることも分かっているのである。条約締結国のコスト負担や便益の配分などの検討が急がれる。
何よりも公海という未知のフロンティアが存在していたことに驚く。宇宙開発については既に1967年に宇宙条約ができていて、昨今では、アメリカのみならず競争して宇宙のフロンティアに向かう国々が増えた。一方で人口爆発を憂慮し、他方で人類が使える未開発の資源や新たに住める惑星などがあるとしたら、フロンティアに向かわない手はない。
これまでも、各国が協力し、あるいは競って南極調査を行ってきたが、公海に眠る便益を各国合意の下に、日本が積極的に求めていくことは望ましい。資源がなく人口減少の国日本は、国益として取り組むべきである。日本は、従来、科学が導くフロンティアに関し、政治が消極的だった。洋上風力発電も、CCS(二酸化炭素分離貯蔵技術)も、宇宙太陽光発電も、国際リニアコライダーも、学術者からのアイディアに政治が積極的に乗り出すことはなかった。
下り坂の日本と言われているのを甘受せず、国益のために、公海にでも、新しいフロンティアにでも、出て行って勝負する日本でありたい。検討倒れと遅延はやめてほしい。