性犯罪刑法の改正
共謀罪の法案が優先されて審議に入れないのが、刑法改正案だ。1907年刑法制定以来110年にわたって改正されなかった性犯罪の厳罰化、非親告罪化を内容とする重要な法案だ。
被害者は男女両方を対象とし、これまで強姦罪(改正案では強制性交罪)の刑の下限が3年であったのを殺人罪と同じ5年に引き上げ、告訴しなければ立件できない親告罪を改め、告訴無くても立件できるようになった。
これに加えて、18歳未満に対する監護者(大抵は親)のわいせつ罪、性交罪は、暴行・脅迫を要件とせず、その事実だけで立件される。
言うまでもなく、時代と共に変化してきた事件の実態を踏まえ、また、被害者側の事情を考慮した改正である。これに合わせるように、最近、有名ジャーナリストに準強姦された女性詩織さんが名乗りを上げ、また、実父から性虐待を受けた山本潤さんが「13歳、私をなくした私」を出版した。
山本さんの本は、被害者でなければ分からない恐ろしいとも言える数々のトラウマ反応が書かれている。被害者が傷つくのは「なぜ抵抗しなかったか。実父なんてありえない」という一般の反応だ。共感を得られにくい、自力で克服せざるを得ないトラウマを一人抱えて生きていく被害者に、改正法は満点ではないが朗報にはなる。タブーを明るみに出したのだ。
話は飛躍するが、強姦の被害者も、権力に楯突いた者も、同様に、社会は葬ろうとする傾向がある。「本人がおかしいから、そうなるのだ」。何を言いたいかと言えば、前川文科次官のことだ。日本の社会は、真実の意味で民主主義的ではない。勇気をもって被害体験を名乗り出た人も、勇気をもって真実を語った人も、日本固有の「事なかれ社会」では消されることが多いのだ。その意味でも、この改正刑法は社会のタブーに風穴を開ける可能性が感じられる。
山本さんのトラウマ描写を最後まで読み切るのは、男性ではいないだろう。しかし、法律となって社会の旧弊を捨て去ることについては、男性であれ、女性であれ、受け入れられる。早く法案審議に入ってほしい。