ゴールのある日本の選択へ
稲田防衛大臣辞任と蓮舫民進党代表辞任という政治ニュースのあった昨日だが、私は、それを超える科学情報を得た。二人の「偉い」女性は日本を変えないが、昨日の安井至東大名誉教授のお話は、日本を確実に変えると思い、私は興奮した。
エネルギーを軸に持続可能な未来に向けた日本の進路を語った安井先生のレクチュアの概要は、こうだ。先ず、CO2が地球温暖化の原因であることは科学的に証明尽くされた。したがって、パリ協定を離脱したトランプ大統領の言う「気候変動はでっち上げ」は無知によるものと断言。
パリ協定は気候正義(climate justice)というヨーロッパで作られたコンセプトで成り立っている。日本人は、キリスト教文化と同様、気候正義というヨーロッパ人の教条を先ず理解できていない。正義とは理念であり、したがって協定が目指すゴールを「目標=ターゲット」と訳すのは間違っている。
ゴールは最終到達点ではなく、飽くまで、目指す地点である。辿りつかないかもしれない。だから、パリ協定が目指す、気温上昇を2度までに抑えるCO2の削減は、到底不可能な数値である。どこまでできるかという問題だ。特に、開発途上国のCO2排出量はうなぎのぼりに上がっていくのを止められない。
先生は、代替エネルギーについて、誰しもが主張する太陽光発電や風力発電の話ではなく、産油国が石油のカーボン部分と水素を分離し、カーボンを埋め、水素を輸出するCCS技術が進んでいることを紹介。また、水素エネルギーはアンモニア化して搬送できるそうだ。
その上で、先生はCO2排出ゼロのための3つの選択肢を示す。CCSを使う、自然エネルギー100%戦略、そして原子力依存戦略。3つ目は、日本では、天災を許して人災を許さぬ「穢れ」の考えがあるから、難しかろうと言う。しかし、核ゴミを出さぬ核融合だけのエネルギー開発は第4世代原子力エネルギーとして米国で進んでいる。選択肢としては残る。
日本に必要なのは、目指す未来のゴールを先に考え今日に下って政策を立てることだと言う。これは予報(forecast)の逆で、backcastという考え方。日本はこれを導入すべきという。また、政策選択する立場の政治家は、票をとれないことはできないので、環境問題に真剣に取り組めない。むべなるかな。科学と技術にはリスクが伴い、言った通りにはならない可能性があるからだ。だからこそ、目標ではなく、ゴール、つまり、できるだけ近づくことを念頭に政策選択をすべきということになろう。
私は、先生に、「日本は西洋から輸入したものは、議論するより前提条件として飲み込んでしまう。民主主義というjusticeも気候正義(climate justice)と同様に、70年前にさらりと受け入れ、今日の政治の前提になっている」と申し上げた。先生も否定はされなかった。