忘れ物が多い岸田政権
バイデン大統領がハリス副大統領に「譲位」を決定したのは、日本の政治に影響を与えないだろうか。高齢者には調子のよいときと悪いときが交互にくるので、たまたま調子の悪いときにトランプとの討論対決があったのは、バイデン大統領の不運だった。トランプ前大統領がすんでのところで銃弾的中を免れた運の強さと対照をなす出来事だった。
このことは、ウクライナやイスラエルは言うに及ばず、世界を驚愕させ、米大統領選に何十倍もの興味が注がれることになった。日本はと言えば、さて、岸田政権の「譲位」はなるか。ならないまでも、影響は免れまい。譲位があってもなくても、アメリカの政治劇のすごみに比べ、自民党総裁選はソープオペラの類であり、直後に予想される総選挙でどこまで自民党が減員するかの問題だ。
ならば、譲位しなくてもいいよ、総理殿。またぞろ世襲の垢がついた顔ぶれに期待は抱けない。だけれども、投資政策と少子化政策と防衛費引き上げばかりが言及され、政策の忘れ物が多くはないか。その一つが食料安保だ。ウクライナ侵攻きっかけに、また円安が響いて、食料が物価値上げの中心になってきた。
ウクライナからの小麦輸入ができなくなったアフリカや、食料補給路がブロックされたガザ地区では、たいへんな食糧難に陥っている。カロリーベースの食料自給率38%の日本は他人事と考えてはならない。海外からの食料輸入が絶たれたら、第二次世界大戦直後の飢餓状態が再現することになる。
気候変動で海水の温度が変わり、漁獲に大きな変動が起き、漁師が離職する騒ぎにもなっている。野菜や果物を生産する農家、畜産農家では、夏の暑さで収穫減や生産減が免れない。日本が温帯から亜熱帯に変わりつつあるのを看過すれば、国産の食べ物はますますじり貧になる。今、物価が多少上がっても食べられるから平気だと思っていたら、危機が訪れた場合に対応できまい。
インドは既にコメや小麦の輸出禁止に踏み切っているし、中国では食料備蓄を行っていると聞く。日本の一次産業の状態や海外からの輸入の不確定要素を鑑みた時、一体政治は食糧安保という政策の忘れ物をどうするのか総理に聞いてみたいものだ。
日本はどこを向いて仕事をしているのか。先進農業や大規模農業を目指しつつ、減反政策をはじめ中小農家の「いじめ」政策もやる。防衛費増強の中に食糧安保は位置付けられていない。
たくさんの忘れ物のなかでも、食糧安保は喫緊の課題と思われるが、下手な政局劇よりも、忘れ物に取り組んでほしい。