日々雑感

睡眠科学と社会的問題

   今週、柳沢正史・筑波大国際統合睡眠医科学研究機構長のお話を聴いた。柳沢教授は、血液収縮作用を持つエンドセリンとナルコプシー(眠り病)の原因となるオレキシンを発見し、利根川進、山中伸也に続くノーベル医学生理学賞の日本人候補として期待されている。
 1991年から24年間にわたって、テキサス大学とハワードヒューズ研究所で研究を重ね、2010年には、内閣府の最先端研究開発支援プログラムから18億円の研究費を獲得し、其の後帰国して現在に至っている。
 哺乳類だけでなく、殆どの動物は睡眠する。昆虫、魚類、爬虫類、線虫、そしてクラゲも睡眠することが判明している。チンパンジーなど人間に近い動物は人間よりも長いが一定の時間眠る。動物によって睡眠時間が一定しているそうだ。
 先生のお話を記録するのは別の機会に譲るが、先生の結論は「なぜ眠るのか、なぜ眠気が来るのかはまだ解明できていない」であった。ただ、最近はやり出した「睡眠負債」は、労働生産性や国内総生産の低下につながることを十分考慮に入れねばならない。東京人は、世界の都市生活者の中で一番睡眠時間が短く、平均5時間28分分である。先生は、日本がドイツに比べ労働生産性が低い(ドイツの方が1.6倍)のも、ある試算によれば睡眠負債による日本の国内総生産3%損失も有意味に捉える必要があるとのことだ。
 睡眠科学は生物的な研究が主で、これまでも、疾病との関係は報告されてきた。それこそ先生自身がナルコプシーの治療にオレキシンが使えることを発見したのである。糖尿病やメタボなどにも研究は広がりそうだ。将来に向かっては、社会科学のアプローチが必要なのではないか。睡眠と寿命、知能、性格、睡眠の性差、年齢差などがすぐにでも研究テーマになるのではないか。
 意外な政策的解決方法が見えてくるような予感がする。その意味でも、柳沢教授の今後に大いに期待したい。先生は、アメリカが長かったせいか、最近ノーベル賞を取った「もの静かな」研究者とは異なる。青色LEDの中村修二教授や利根川進教授によく似たアグレッシブさを感じた。もしかしたら、今の日本に欠けているのは、研究や企業のアグレッシブさかもしれない。少子高齢社会の中で、アグレッシブがかき消されているのではないか。
 飲み会で、柳沢先生は、「アメリカに比べて日本食はうまい」と言った。そこだけ日本の男性みたいだった。

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