安倍政治の終焉
与党内野党の石破茂が、5回目の挑戦で総理の座を勝ち取った。勝つべくして出馬した高市早苗の顔は蒼白であった。この結果の意味は、単純に、安倍政治の終焉であると筆者は観る。
安倍政治の正統な後継者高市は、政治とカネをはじめとする安倍の負の遺産については及び腰だった。日本をもう一度世界のトップに押し上げるという安倍の理想だけを強調した。対して、石破は、アンチ安倍政治であることは明らかだが、明確な方針を語ってはいない。
大平首相以来の「言語不明瞭な」総理の誕生だが、言葉にならない彼の真意を読み取って、いささかの期待をかけるしかあるまい。これまで世の中とかけ離れた自民党内の超右翼集団に対峙し、政治とカネの国民的納得と、夫婦別姓や愛子天皇の実現までやれれば、自民党は、より国民に近づき、保守政党として息を吹き返すかもしれない。
沖縄を棚に上げて、グアムの米軍基地で自衛隊の訓練をやるなどの案は、筆者が思うに、彼の言動が決して欧米社会に好まれない様相であるだけに、外交防衛の分野では、思わぬ障壁に遭うのではないかと危惧する。菅首相と同じく、サミットの輪からはじき出されないようにと願う。
少なくとも、今度の総裁選である程度の刷新感は出た。石破を選んだ自民党のしたたかさだろう。他方の立民は、総理になる可能性が出てきたからと、創設者枝野を差し置いて党首になった野田元首相は、悪夢と言われた民主党時代と変わらず、「金魚の比喩、分厚い中間層」のスローガンを維持している。
言語の下手な石破は早稲田雄弁会の野田に討論では負けるのではないか。しかし、政治経験、思慮深さでは野田を凌駕する。石破に望まれるのは、いま野党が主張しているようなことは大したことはないから皆やってしまえ、ということだ。ただし、財政規律と消費税引き上げ論者の野田の議論に乗るならば、総理の任期は短期になるであろう。
安倍政治は高市の敗退とともに終わった。この機を石破がどれだけ活かせるか、期待と不安が入り混じる。