日々雑感

夢のケイ素

 過日、産総研触媒化学融合研究センターの佐藤一彦センター長によるレクチュアを拝聴した。化学のイノーベーションに夢が持てる陶然としたお話だ。
 ケイ素はガラスの材料だが、この地球上で、酸素に次いで多い元素である。つまり、無尽蔵の資源ということだ。ケイ素を使い、かつ触媒を発明して製品にまで結びつける研究に先生は勤しむ。先生が中核となり、東大、京大、理研等と人材をクロスアポイントし、企業とも組んで、これまでに多くの製品化に成功している。
 このとき、触媒開発には、AIが役立っている。最先端技術である。先生のお話では、ものづくりは、触媒開発とプロセス開発とAIを掛け合わせた形で行われている。余談だが、経験値の多い触媒開発は、AIによって研究者の職を奪う可能性もあるのではないかと筆者は心配するが。しかし、産官学で新たな境地が開けているのは喜ばしいことである。
 二酸化ケイ素を使った研究プロジェクトからは、燃えるごみからシリカ(シリコン)を作り出すなど、経済効果・社会効果の見込まれる結果を出している。現在、化学の産物としては、石油製品が多く、ケイ素の産業化は石油の194分の1と少ないが、有限の石油に比べ、無限のケイ素が将来、取って代る可能性はあるとのことだ。
 一例をとれば、我々の服は、現在石油から作られたものが多いが、将来、ケイ素製品になる可能性がある。資源小国の日本にとって朗報である。そして、佐藤先生は、その先まで夢を見ている。「空気から肉をつくる」。身の回りに無尽蔵にある材料で食料・生活用品を作っていけば、2050年に地球の人口が96億人になる予測を恐れる必要はなくなる。少なくも、1974年にローマクラブが警告した地球上の食糧難は、地域偏在の問題は別として、訪れなかったという歴史がある。楽観視してよいかもしれない。
 佐藤先生のお話に、筆者はまさに「陶然と」したわけである。

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