地中海ダイエット
最近、磯田博子筑波大地中海・北アフリカ研究センター長のお話を聴く機会を得た。日本、チュニジア及びモロッコの間で生物多様性条約に基づく契約を結び、磯田教授は頻繁に現地に足を運んで地中海に自生する食薬を研究している。生物多様性条約を巡っては開発途上国と対立しがちだが、将来の製品化を視野に入れて、利益配分等も明確にしたと思われる。
日本では、地中海ダイエットがかなり浸透していて、「我が家はオリーブオイルしか使わない」という人がいる。そのオリーブは赤血球を増やす作用があり、他にもイスラムねぎは非アルコール性肝炎に効く等々、伝統的に薬効ある植物のエビダンスを引き出すのが先生の研究である。ローズマリーやアロマは欧州発だが、香りの「薬効」も研究対象である。
古来、エジプトのピラミッドが盗掘されたのは、金銀財宝と並んで、ミイラの「薬」としての価値を見出していたからだ。アジアでも、漢方薬となる植物や朝鮮ニンジンは高価であり、大切にされてきた。動物も、回春作用のあるスッポンは貴重で高価な食物である。しかし、これらの多くは、経験的に効用があるとされてきたのであって、現代になってその薬効の成分分析や効用のメカニズムが明らかにされている。まだ端緒と言ってよいのかもしれない。
今回のノーベル医学・生理学賞受賞者に決まった本庶佑教授は、癌の免疫療法のメカニズムを解明した。かつて丸山千里日本医大教授が、結核患者にがんが少ないのに着目し、結核菌から抽出した丸山ワクチンを開発し厚生省に申請した。しかし、先生が亡くなって30年近く経つ今も承認は得られていない。これこそ癌の免疫療法であるが、効用のメカニズムが解明されないままであった。本庶教授は、免疫療法のその解明によってノーベル賞をを受賞したのである。
それでも、多くの癌患者が丸山ワクチンを求め、自主的に使用してきた。地中海ダイエットにおいても、経験的に効用があって現に使われているものを科学的に解明していく、ある意味での「創薬」を目指す研究である。医食同源、薬食同源の世界を広げる期待の高い研究と言えよう。
現実の世界では、これ一つ飲めば、病気が治る、美しくなるという製品の宣伝に出くわし、いずれも信じがたい。何か一つの摂取で健康になったり、綺麗になったりした人に会ったことがないからである。思い込むことによる精神的効用があると言えばそれまでの話だが、研究が進み、エビデンスの有無が大抵明らかになった時には、「昔はものを思わざりけり」になること必至である。