日々雑感

トマトのGABA

 過日、江面浩筑波大教授、つくば機能植物イノベーション研究センター長のお話を聴く機会を得た。先生は主にトマトを対象に次世代遺伝資源の開発、その分子機構解明を通して人類の食料の質的量的拡大を追求する。また、先生は全国のみならず中国など海外でも啓蒙活動に大忙しである。
 
 遺伝子組み換えは厳しく規制する傾向にあるが、先生はこれとは厳密に異なる、ゲノム編集という技術を使う。前者は、遺伝子の数を増やすのに対し、後者は遺伝子の数は元のままである。したがって、ゲノム編集の規制のほうが緩い。

 いずれノーベル賞といわれる、アメリカで開発されたcrisper-cas9というゲノム編集技術によって、トマトの日持ち性、高糖性、機能性物質の蓄積などの画期的な改良が行われる。crisper-cas9は、自然界で大腸菌が果実に作用した方法を技術にしたものだ。
 
 先生の研究から、トマトにGABAと呼ばれるアミノ酪酸の一種が高蓄積される品種が作られた。GABAは血圧を下げる働きを持つ。これは、朗報である。最近、日本高血圧学会が、アメリカのデータを用いて高血圧の定義を変え、高血圧予備軍が増加する見込みだからである。

 しかし、降圧剤には、副作用も報告されている。そもそも高血圧は病気ではなく、心臓病などのリスク要因にすぎない。だとすれば、東洋では、昔から医食同源の考えがあるのに従って、食を通して体質改善できればそれに越したことはない。トマトはその有力候補になる。

 江戸時代、食糧増産のため、青木昆陽が普及させたサツマイモは、自然界で微生物が根のDNAに入り、ゲノム編集されて根が太くなったものだという。トマトは、原産はペルーで小粒だったが、スペイン植民地時代に欧州に運ばれ、今では数えきれない種類に改良されている。

 日本は、トマトを食べ始めて百年、トマト好き国民らしい。団塊世代の筆者が子供のころ食べた小ぶりの酸っぱいトマトは現在市場にはない。見目が美しいだけでなく、GABAのような機能を持ったトマトは身近なイノベーションである。江面先生の研究にさらに期待したい。

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