日々雑感

制度が変われば社会が変わるー世界こどもの日に寄せて

 11月20日は、国連が定めた「世界こどもの日」。1959年の児童権利宣言、1989年の児童権利条約の国連における採択も11月20日に行われた。日本も、児童権利条約の発効は1994年11月20日である。しかるに、1954年、国連が加盟国に子供の日の制定を促したことから、日本は子供の日を5月5日に制定したため、今日が世界こどもの日であることを知っている人は少ない。
 
 現在国連が掲げるSDGs(持続する発展目標)17のうち、飢餓、貧困、医療、教育の分野では子供が最優先の課題であることは疑いを差し挟む余地はない。そして、子供の権利擁護機関の筆頭に当たるのがユニセフ(国連児童基金)である。

 筆者は80年代半ば、厚生省からユニセフの中北部インド事務所に出向し、3年余を開発援助の分野で働いた。現在、ユニセフは子供の権利を重視し、SDGsを目標にして活動している。筆者が働いていたころのユニセフは、GOBI-FFという目的であり手段でもある援助哲学を掲げていた。

 その内容は、成長記録(G)、哺水療法(O)、母乳(B)、予防接種(I)、さらに、家族計画(F)、出生率(F)であった。予防接種を除けば、お金のかからない援助方法であり、優れた内容である。しかし、今から思うと、80年代は、子供のインフラ(衛生、教育、福祉)整備は戦前の植民地支配の尻ぬぐいであり、家族計画などは70年代に叫ばれた人口抑制を念頭に置いたものであった。

 当時は、W.W.ロストウの唱える、インフラを整備することにより、開発途上国はテイクオフ(離陸)し、発展すると考えられていたが、現地で仕事をしながら、その日が来るとは信じられなかった。国連機関としてできることはまさにバケツの中の一滴でしかなかった。

 しかし、あれから30年以上たち、インドは国内総生産世界7位の国に発展した。80年代は眠れる巨象と言われていたインドだったのだ。中国もまた国内総生産世界2位の国になり、2030年にはアメリカを抜いて1位になる。80年代には眠れる獅子と言われていた。象も獅子も起き上がった。きっかけは、インドは、ソ連崩壊から、東寄り政策をやめ、市場原理を重視する政策を採用したからだ。中国は毛沢東の死後、鄧小平が、政治は共産主義でも、経済は特区を利用しながら資本主義を採用したからだ。

 制度が変われば社会は変わる。少しづつ国連や政府がインフラ整備をしていたのとは違い、人々の行動が変わり、社会全体が動くようになったからだ。もはやロストウの経済発展論は見当たらない。ついでに、暗黒大陸と言われてきたアフリカにおいても、南アフリカは、アパルトヘイトを廃止し、マンデラ元大統領によって急速に発展した。まさに制度の変換が国を一変させた例である。
 
 小さな呼び水が発展につながるのではない。大きな制度変換が一躍発展させると筆者は信じてやまない。翻って、日本の福祉を鑑みれば、1997年の介護保険法、2000年の社会福祉法は、それまでの施し(措置制度)から市場原理(社会保険による権利)の制度への変換をもたらした。市場原理になじまぬの理由で、児童福祉と障害福祉はこれを回避したが、老人福祉である介護の世界は、これを受け入れ、権利化したことにより、法の施行から20年近くで、9兆円の介護産業を作り上げた。

 制度は人の行動を変え、社会を変える。筆者はそう信じている。世界こどもの日の今日、いじめも虐待も子供の貧困も一向に政策的な前進が見られない状況の中で、児童福祉や教育の世界も、もっと競争原理を取り入れ、リスクと思われるほどの制度変換を望んでならない。

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