人智の限界
新型コロナウィルスの蔓延予防のため、国境が実質的に閉ざされ、国内の活動が抑制されている。いくつかの経験値や統計上の事実は分ってきても、いかんせんワクチンと特効薬が確立していない。しかし、他方で、重症化は少なく、死亡の多くは高齢者であり、ウィルスの正体を突き止める前に行う予防策が効果的なのかどうかは将来の解明を待つ。
日本人は真面目だ。公衆衛生に集団として取り組む姿勢が顕著である。電車では、今やスマホ以上の数のマスク姿が見られる。欧米に比べても予防効果を上げているのが数値で明らかである。この真面目さが戦後の結核撲滅につながってきたことを思わずにいられない。今や公衆衛生は医療費削減と連動して、メタボ撲滅などの指導が保健所で行われているが、かつては、厚生省公衆衛生局に臨床経験に優れた医系技官の粋を10人近く集め、結核撲滅に取り組んだ。
80年代のエイズの時は、同性愛者の疫病という間違った情報で、限られた人の性的感染と楽観視した人も多かったが、今回の飛沫感染は誰にでも起こりうると予防行動に全員が参加する。
科学的にわかっていないことは実に多い。中国や韓国の大都市で問題になっているPM25(particulate matter 2.5マイクロメートル)という空気中の超微粒子についても解明できていない。先月の筆者が参加した国際会議で、クリフ・デイビッドソン・シラキュース大教授は、空気汚染が神経系、循環器、気管支に与える影響について警告し、子供の学習能力にも影響することをデータで説明した。また、自動車起因の食物、水及び空気に含まれる亜鉛の影響にも言及した。同教授は、解明されていないことが多いと付言した。
同会議で、ラッタン・ラル・オハイオ州立大教授は、人間と土の関係を紀元前迄遡って歴史的に説明し、現在、土の質が危険にさらされている事実を指摘した。土の汚染については、空気や水に比べ、我々の認識が甘く、知られていないことが多いのに驚いた。
同じく、この会議において、リュック・モンタニエ教授(2008年ノーベル生理学・医学賞受賞)が、水、食物、及びワクチンに潜む危険を述べ、特にワクチンについては子供に接種するに当たり科学的安全性が確保されていない限り行うべきでないと力説した。パスツール研究所出身で、エイズウィルスの発見者である同教授は、多くのワクチンはむしろ危険性が高いとの認識を示した。
科学者の専門家の会議でも、人間は「真実」に迫り切れていないことが強調され、我々は分っていないことを前提に政策に踏み出さねばならないことを知らされた。同会議で、マリオ・マリナ・カリフォルニア大教授(95年ノーベル化学賞受賞)は、温暖化の問題などは、最早科学者の手ではなく、責任は社会に移行している、つまり、政治の選択にかかっていると主張した。それにしても、新型コロナウィルスは全世界に経済不況をもたらすかもしれないが、現在の公衆衛生上の政治選択が吉と出るか凶と出るか我々には不明である。