コロナチャンス政策
「毎日がコロナ情報」に浸る日本である。緊急事態宣言延長論が早くも出始め、欧米やアジアの国々に後れを取った感が無きにしも非ずという中で、コロナ状況をきっかけに、学制を9月入学に変える政策が浮上した。
9月入学は、浜田純一元東大総長が熱心に取り組んだが、制度化に及ばなかった経緯がある。浜田元総長は、東大憲章に謳う「世界の視野をもった市民的エリートの養成」のためには、世界の大学に合わせ、9月入学にすることを主張した。
その背景には、イギリスTHE(高等教育専門誌)の世界大学ランク付けがある。これによると、日本の大学で100番以内に入るのは、東大と京大2校で、2020年版では、東大36位、京大65位と欧米の大学、アジアの大学に差をつけられている。その理由は、両大学とも論文引用数や民間資金の導入では高得点を得ても、国際性の項目で劣るからである。
国際性の項目には、留学生の数や外国人教師の数などが基準となるが、東大に集まる留学生は少ない。英語国ではないというデメリットが最も大きいものの、入学が4月では、空白期間ができるために学生は逡巡する。他方、日本人学生が留学する場合も、同じ問題があり、近年の留学減少傾向の一因と思われる。
浜田元総長に対して、東大教員が集まって反対声明を出したこともある。既に多くの議論が行われたのである。日本では、海外での学歴は相対的に低く見られ、日本の大学学部で学歴が評価される傾向がある。アメリカの大学は自己資金を持って留学する場合は入学許可されやすく、近年入学が易しくなった日本の大学院とともに、学歴ロンダリングに使われることが多い。この一般的な認識の下では、留学のメリットは大きくない。
議論が行われることは望ましいが、コロナでどうせ学期が遅れたのだからという理由では、コロナの終息も見えていないのに、雑な政策論である。それよりも、コロナをきっかけにこれまで長期を要する議論を避けていた政策に取り組むべきではないか。一つは、女性天皇制、もう一つは、年金改革である。
年金は、1942年、戦争に行く労働者に向けて、あえて将来の安定を鼓舞するために積立年金制度として作られた。戦後、1970年、高齢者割合7%の高齢化社会を迎え、1973年改正の年金制度は、当時の社会に残っていた道徳「親孝行」をコンセプトに、世代間扶養の賦課制度を導入した。そのコンセプトは現行年金制度に生き続けている。
年金制度ほど長期的な社会政策はほかにない。しかも社会を長期的に変える力を持っている。今その力を必要としているのは、少子化を食い止める制度的対応である。世代間扶養を転じて、三世代間扶養のコンセプトを採用すべきである。三代目、つまり、育てた子供の数に応じて、将来受け取る年金額が加算される仕組みである。
保育所の整備や学校教育の無償化は少子化に対する積極給付であり、それはそれで良い。将来の日本を支える子供を育てた両親に「ご苦労さん給付」を設けることによって、目の前の必要な給付以上に、子育てした老後が報われる長期的動機付けは、実は大きく日本の社会を変えるだろう。
親孝行という言葉はほぼ死語だが、年金制度にそのコンセプトが残っている。ならば、将来「子育てご苦労さん」のコンセプトを制度上残すことは望むべきだ。コロナ状況で仕事に苦しみつつ、休校中の子供を改めて自分の努力を捧げる存在と考えるならば、年金制度の転換に取り組むべきだ。