隣は何する人ぞ
コロナでテレワークになって初めて、近所の存在に気付いた人も少なくない。ゴミ出しで会った近所の男性の存在や生業を図らずも知ったりする。都会でもかつてはあった近所の年始参りやおすそ分けなどは消滅した。昔は当たり前だった、宅配便が近所に荷物預かりをお願いするなどはありえない。
郡部では、今でも近所づきあいは色濃く残っている。数世代に渡るご近所づきあいや葬式などの互いの助け合いは、若い人には煩わしい関係である。話は飛躍するが、日韓関係とはまさに郡部のご近所づきあいに近いものではないか。祖父や曽祖父の時代からの愛憎の念を引き継ぎ、つかず離れずで向き合わねばならない関係である。
その日韓関係は、今、冷え込んでいる。勿論、これまでも冷え込んだり回復したりの繰り返しであるから、事態を深刻に受け止めているわけでもない。しかし、昔ながらの関係に、米中関係を中心とした世界の動きが構造的に働きかけてきた。日韓関係だけを取り出した地政学はあり得ない状況の中で、これまでとは異なる解決方法が迫られている。
日韓関係をこじらせた原因は、文在寅大統領の南北統一の野望である。彼は世界の大政治家になりたかった。東西ドイツ統一を成し遂げたヘルムート・コールのようになりたかった。アメリカがこれに手を差し伸べるように見えたが、トランプ大統領の気まぐれで終わり、今や北朝鮮にその動きのかけらさえもないことが明らかになった。それよりも、日米韓のGSOMIA破棄の脅しや朴槿恵政権以来の中国寄り政策などがアメリカの懸念を膨らませている。
日本も韓国も今や最大の貿易相手国は中国であるから、その意味では中国重視は避けられない。しかし、韓国は、5世紀にもわたった李氏朝鮮が明や清の属国だった事実は重く、同じく属国だったベトナムとともに、対中国感情は元々よくない。文政権は革新政権として、財閥の立場からの貿易重視は考えないし、アメリカに対しても、日本のように後ろ盾とまで考えていない。
文政権は、就任以降、経済を悪化させ、記憶に新しい日本の民主党と同じ運命をたどると思いきや、コロナ制圧に成功し、与党「ともに民主党」を選挙で圧勝させた。革新政党としては珍しい出来栄えである。自信をつけていることは確かだが、韓国内では世代交代が進んでいる。いわゆる86世代は進歩的で80年代に学生運動を経験し、今や国の背骨にあたる。全共闘運動の主役団塊世代の韓国版ともいえる。彼らは合理的で、アメリカからも中国からも距離を置き、中堅の先進国としての立場を望んでいる。南北統一に対してはクールだ。また、反日教育が施されても、彼らもそれより若い世代もインターネットで情報を取り、日本の実情を好意的に把握している。
他方日本では、マスコミによる例によって「広く浅い」情報と知識で、「韓国は約束を守らない国だ。韓国が改めるまでは、日本は動く必要はない」という世論を作り出した。だが、女子中学生の間での韓国文化ブームなど、政治とは関係なく韓国を好意的にみている人も多い。
さて。両国関係をどうすべきか。現在、中国の王毅外相が日本を訪問中だが、尖閣列島では火花を散らしつつも、中国は「政冷経熱」が基本だ。ここは中国に学ぶべきではないか。先ずは、日本の品質管理の良さと韓国の営業力を組み合わせ、世界の経済に寄与することから始めるべきだ。
旧来の近所づきあいがうまく働くときは、お互いを見つめあうのではなく、お互いが協力して行う仕事がある時なのである。