日々雑感

もう一つの環境問題

 COP26が英グラスゴーで開催された。総選挙直後だが早速岸田首相は駆け付けた。COP26の2050年カーボンニュートラル目標が達成されねば、温暖化の災禍が地球を襲うと叫ばれている。
 岸田首相は、彼らしく、できないことは言わず、淡々と開発途上国の援助を含め予算まで言及した。しかし、スウェーデンの環境活動家グレタさんには生ぬるいと映ったであろう。しかも、首相は日本語で演説をした。せっかくの首脳外交ならば、思いの伝わる英語ですべきだった。
 地球温暖化と気候変動を否定する政治家は今や立つ瀬がない。科学者の総意として世界連帯で取り組むことが当然になった。それが証拠に、トランプ前大統領が離脱したパリ協定にバイデン大統領は戻ってきたのである。
 カーボンニュートラル目標は、先進国と開発途上国では相違がある。これから発展しようという国に、CO2削減目標はきつい。現にインドは70年を目標に、中国は60年を目標にカーボンニュートラルを掲げ、足並みをそろえる気はない。気候変動の政策目標は株価の予測みたいに、希望的観測にすぎないかもしれない。
 しかし、具体的に取り組める、もう一つの大きな環境問題がある。環境化学物質だ。一時期、環境ホルモンは話題をさらったこともあるが、現在は気候変動の陰で「静かなテーマ」になっている。
 筆者は、星信彦神戸大大学院教授のお話を聴く機会を得た。星教授は、もともと産婦人科医であったが、動物生態学に研究分野を広げ、環境化学物質による中枢神経への影響と生殖障害を研究されている。
 農薬に含まれるネオニコチノイドが、自閉症、パーキンソン氏病、統合失調症などの中枢神経系疾患の原因になっていることをデータ化し、論文公表している。先生が切歯扼腕しているのは、ヨーロッパでは、ネオニコチノイドを全面禁止している国が多く、ポストハーベストの化学物質残留基準が日本に比べ桁外れに厳しいにもかかわらず、日本は「農薬垂れ流し」の状況にあることだ。
 主たる農薬7種のうち6種は日本が開発したそうだが、政府は業界を守るために基準改正に逡巡するのではないかとの憶測もある。産婦人科医である星先生は、気候変動以上に、将来の世代への影響を憂慮する。日本人男性の精子が減っていることも、動物実験では残留農薬の物質が働いているという確かな論文があるのだから、警告を出す時期にある。
 菅前首相に始まった不妊治療の保険化政策は、不妊の結果に働きかけるものであり、不妊の予防に無頓着である。星先生の研究分野エピジェネティクスは、DNA変化を伴わずに環境によって遺伝する遺伝学分野である。エピジェネティックスの研究では、環境化学物質の感受性は男性に強く、女性にはマイルドであることが動物実験で判明している。つまり、不妊治療には、特に男性の環境化学物質被曝を避ける方法を検討しなければならない。
 星先生は、農薬を禁止するのは現実的ではないから、その残留基準引き上げをせめてヨーロッパ並みにすべきと主張される。筆者には是と思われる結論だが、日本の政治家に、コロナで失敗したのだから、もっと科学者に、それも御用学者ばかりではなく、新進気鋭の科学者に幅広く耳を傾けて政治に取り組んでほしい。

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