ダークマター・ダークエネルギーの世界
著名な素粒子物理学者村山斉先生のご講義を聞く機会を得た。先生は、カリフォルニア大バークレー校教授であり、東京大学特別教授でもある新進気鋭のスター学者だ。
近年、宇宙は、未知の物質ダークマター(暗黒物質)から成り立っていることが定説化している。この物質がないと重力が無くガスが集まらないから、銀河系も星々もできないことになる。したがって、ダークマターは我々の「生みの母」なのであるが、今のところ正体は分っていない。原子ではなく、ブラックホールでもなく、ニュートリノでもない。
2003年、この物質は宇宙の初めに造られた重い素粒子であろうと、スイスにある地下百メートル、山手線全周規模の加速器を使って造ってみようとの試みが始まった。ダークマターは活動力の弱い「弱虫」なのか、強い「強虫」なのか、村山先生は後者の理論家だ。
アインシュタインの理論によって、宇宙は膨張しその速度は速まっている。その結果、宇宙は、原子5%、ダークマター27%、ダークエネルギー68%の構成から、ダークエネルギーが8倍に移行するそうである。それが宇宙の未来だ。
う~ん、理解を超える。宇宙の研究など思いもつかぬ人生を送ってきた筆者は、研究の道具である数学と実験物理学について、先生に質問してみた。物理は閃き、数学は立証の立場にあると思うが、先生によれば、人間が作った言語である数学は、宇宙物理とともに変化していくそうだ。確かに、数学の立証によって、ニュートンの力学は全能ではなくなり、アインシュタインの理論ですら、今や量子力学が反映されていないとして全能ではなくなりつつある。
もう一方の研究道具である実験物理学に欠かせないのが、加速器であり、実験でビッグバンの状況を作り出すことができる。今日本にあるのは、高エネ研にある長さ3kmの加速器が最大である。世界では、スイスに、前述の巨大な加速器がある。
筆者が衆議院議員時代に、東日本大震災からの復興のため、岩手県にILC(国際リニアコライダー)と称する加速器の招致に関わったが、不発に終わった。これは、前述のスイスにある加速器を超える世界最大のものである。村山先生はこの招致にも関わっておられ、米国が協力を申し出ているのに日本政府の動きがないと言う。やはり政治が滞っているのだ、この国は。
今では、ILCの招致が成功すれば、世界の物理学者が何千人と集まる拠点が日本に出来、日本の科学ルネッサンスにもなろう。村山先生によれば、中東では、SESAMEと言う名の宇宙研究所が、政治では反目しあうイスラエルとアラブ諸国などの共同で創設された。まさに科学は世界を連帯させる。
もう一つ村山先生が言われたのは、科学と技術だけではいけない、研究の世界には、人文科学やリベラルアーツも必要だとのこと。宇宙の話は、まるで映画を見るような興奮と感動を覚えるが、夢を与え、閃きをもたらすには、リベラルアーツの役割は大であろう。それにしても、日本を動かすには、政治家の「洗脳」から始めなければならない。選挙は終った。学問をせよ。