岸田外交とは何?
「新しい資本主義」「新時代のリアリズム外交」。岸田首相の言葉は踊るが、内容は未だ定かではない。北京オリンピックが始まり、アメリカに追随して、外交ボイコットではないという実質的外交ボイコットを行い、韓国の反対を考慮していたはずが安倍元首相の介入で佐渡金山の世界遺産登録申請は行われた。
新時代のリアリズム外交は、明らかに安倍・清和会の流れを変える意思を伝えたものと思う。岸田・宏池会は池田勇人、佐藤栄作、宮澤喜一を擁する吉田学校メンバーが主張する、日米同盟だけでなく北東アジア政策への配慮を指針とするものではなかったか。
長期政権で世界に足跡を残した安倍元首相の外交から岸田政権は少しも抜けることはできない。宮澤喜一元首相が清和会はA級戦犯(暗に岸信介を指す)の戦前復帰の考えが入っていて、宏池会とは考えが違うと言い切っていた。その伝統を忘れたか、岸田外交は清和会に押し切られている。
安倍元首相は、意図的に「私は岸信介のDNAを継ぐ」と言い、外務大臣を務めた父安倍晋太郎や大叔父佐藤栄作には全く触れない。晋太郎は安倍家が朝鮮から渡ってきたことを明らかにし、佐藤栄作は岸信介と対立する吉田学校の出身だからだ。安倍氏は朝鮮系と言われたくないし、また戦前復帰を標榜する以上、二人の存在は邪魔だったのである。
岸田首相の経歴のほとんどは外務大臣であるが、従軍慰安婦問題の合意を取り付けた業績はあるものの、「外交の安倍」の下で影の薄い存在であった。しかし、各国の領袖と会い、会談をしてきた豊富な経験があるならば、今こそ「宏池会外交」を発揮すべきだ。宏池会ナンバー2の林外務大臣を配下に置いたが、林氏も外交については素人の様相だ。
日本が間違っているのは、中国や韓国を観るとき、かつての日中、かつての日韓関係の記憶が抜けきらないところにある。中国は経済だけではなく科学を含む様々な分野で日本を凌駕してきている。韓国は援助していた国ではなく、既に日本と競争する地位にある。どちらも、日本が上に立って物事が運べる相手ではない。
習近平の独裁や文在寅の左翼偏向を揶揄するばかりではなく、国と国の関係として、アメリカやロシアや北朝鮮のいずれとも交渉を辞せず、中韓の協力を得ていくべき時期である。まさに、宏池会外交が力を集中すべき時ではないか。なぜに清話会に屈服するだけの外交なのか。
韓国が専門の木宮正史東大教授は、韓国は、日本がアメリカの代理を務めることを最も恐れ、日本には韓国の「邪魔をする」力があると観ていると過日の研究会で言われた。日本は逆に韓国が日本を邪魔していると考え、アメリカに従わない韓国を苦々しく思っている。ならば、宏池会で培った長年のあらゆる人脈を使って相互激論すべきではないか。
昨年の総選挙では、経済やコロナ対策に交じって、外交も珍しく争点に入っていた。日本人は、良くも悪くもコロナでつながった世界の中でどう処していくのか、北京オリンピックの後で本格化する中国の覇権国家化にどう取り組むのか虎視眈々と政府の動きを待っている。
岸田政権に問う。新時代のリアリズム外交を明快に示せ。